研究課題/領域番号 |
26860022
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
辻野 博文 大阪大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (10707144)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ヘムタンパク質 / 分光学的測定 / 活性酸素 / 一酸化窒素 |
研究実績の概要 |
ニューログロビン(Ngb)及びサイトグロビン(Cgb)は共通して虚血に伴う障害からの細胞保護作用を有している。また、Cgbは肝線維症の抑制作用を持つことが見いだされている。そこで申請者は『新たな創薬ターゲットとなり得るNgb/Cgbの機能発現メカニズム』を明らかにすることを目的に種々アプローチを試み、Ngb/Cgbと活性酸素種との関係性に着目し、1.反応メカニズム及び2.酵素活性と構造の相関関係の二つの項目に関して研究を行った。 1. 反応メカニズム解明 当初、申請者はNgb/Cgbの持つニトロ化能を明らかにすることを目的として実験を行っていたが、昨年度報告したようにCgbを用いた実験により、予想とは逆にニトロ化からの保護作用を示すことを明らかとした。そこで、その詳細を明らかにするためにニトロ化において重要となるONOO-に着目して実験を行った。発生源であるO2・-とNOからのONOO-産生抑制実験を行ったところ、大変興味深いことにNgbやMbなどの他のグロビンタンパク質では全くONOO-の産生抑制を行っていなかったことに対してCgbのみで大幅に抑制を行っていることを明らかとした。一方でCgbでもONOO-を直接消去することは出来ないことも明らかとし、Cgbの反応メカニズムの一端を明らかとすることができた。 2. 酵素活性と構造の相関関係 前年に引き続きNgbを用いて、へム周辺ポケットに変異を施した変異体を作製し、基質親和性および酵素活性と、共鳴ラマンスペクトルの測定を行った。さらにWTではジスルフィド結合の形成によって配位子への親和性が上昇するのに対して第6配位子であるヒスチジン(His)をバリンに変異させ5配位型にした場合では逆の効果が観察されることがわかり、ジスルフィド結合による親和性制御機構をさらに詳細に調べるための足がかりを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、ヒト6配位グロビンタンパク質であるNgb/Cgbについて提唱されている種々の細胞保護機能に関して、分子レベルでの反応メカニズムの解明を目的としている。 申請者はCgbと活性酸素種であるONOO-との関わりに着目し、種々実験を行った。当初は、CgbはONOO-の産生を促進するものと予想していたが、全く逆の現象であるスーパーオキサイドと一酸化窒素からのONOO-の産生を抑制していることを明らかとした。また、この産生抑制はCgbのみで見られ、同様のグロビン骨格を有するMbやNgbでは確認されなかった。このことより本知見はCgbの持つ細胞保護作用の解明に非常に重要な意味を持つと考えられる。また、申請者は上記の作用についてこれまで得られた知見や報告されている事実から反応スキームについて仮説を構築した(次項参照)。今後は本仮説に関してCgbやNgbのみならずMb等他のグロビンタンパク質に関しても検証することで、反応メカニズム解明に向けて大きく前進すると予想される。 また、構造と活性の相関についてはNgbに関しては多くの変異体を作製済みであり、基質親和性の測定や共鳴ラマンスペクトル測定など基礎データは習得済みである。Cgbに関しても反応中心であるヘム周辺残基の変異体をいくつか作製済みである。 以上のように当初の予想とは異なる作用が観察されたが、反応メカニズム解明という目的達成に向けて順調に前進している。
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今後の研究の推進方策 |
1. 反応メカニズム解明 これまで得た知見からCgbは以下のスキームに従ってスーパーオキサイドと一酸化窒素からのONOO-の産生を抑制していると考えられる。 ①ferric型Ngb/Cgb + O2・- → oxy型Ngb/Cgb ② oxy型Ngb/Cgb + NO → ferric型Ngb/Cgb + NO3- しかしながら、ここで疑問が残ることとしてNgbはスーパーオキサイド消去能を有しており、①の反応を起こし得ると考えられる。また②の反応に関してはNgbのみでなくMbやHbでも起こりうる反応として報告されている。すなわち、個別に見た場合の定性的な反応性ではCgbのみがONOO-の産生を抑制する理由を見つけることは出来ない。そこで今後は上記の2反応について反応速度定数を定量的に決定することで、Cgbとその他のグロビンタンパク質との違いを探っていくこととした。また、ニトロ化との関わりについても、これまで行っていたチロシン残基からBSAをターゲットとしてより詳細な検討を行うこととした。以上の実験を行うことで、最終目標である反応メカニズムの解明へと繋げる。 2. 酵素活性と構造の相関関係 上記の反応速度定数の測定法が確立後、これまでに作製した各種変異体について測定を行う。Ngbに関しては多くのへム周辺残基変異体を獲得済みであり、スムーズに実験を行うことが出来る。Cgbに関してもいくつかの変異体は作製済みである。また、中でも重要な働きをしていた第6配位子であるヒスチジンに変異を施した変異体に関しても同様の実験を行い、変化を観察する。これら二つのタンパク質から得られる情報を相互に比較することで、酵素活性と構造との相関関係を明らかにする。
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