研究課題/領域番号 |
26860025
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
近藤 次郎 上智大学, 理工学部, 助教 (10546576)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナンセンス変異型遺伝性疾患 / 抗生物質 / リボソーム / X線結晶解析 / ドラッグデザイン |
研究実績の概要 |
本研究は、細菌感染症に対して処方されるアミノグリコシドの人体への副作用を逆手にとって、ナンセンス変異型遺伝性疾患に対する治療薬として利用するための構造基盤を得ること、そしてこれを利用して薬理活性が高く副作用の低い新規薬剤を設計・開発することを目的とする。 アミノグリコシドは細菌リボソームの活性部位に存在するRNA分子スイッチをON状態に固定させ、コドンの読み取りにエラーを生じさせることで高い殺菌効果を示す。一方、この薬剤がヒトの分子スイッチに間違って作用してしまうと副作用を引き起こす。しかし、これを逆手にとって意図的にコドンの読み取りにエラーを生じさせ、ナンセンス変異によって生じた中途終止コドンをリードスルーさせることができれば遺伝性疾患の治療が可能になる。これを実現させるためには、ヒトリボソームに作用しつつ、副作用の低い薬剤の設計が課題となる。 まず、フッ素化アミノグリコシド7種類、パロモマイシン誘導体5種類を設計・化学合成した。これらの薬理作用を調べたところ、パロモマイシン誘導体5種類が特に高いリードスルー活性を示すことがわかった。また興味深いことに、フッ素化アミノグリコシドは極めて高い殺菌作用を示しつつ人体への副作用が低いこと、パロモマイシン誘導体は抗原虫活性を示すことも明らかになった。そこで、前者は細菌RNA分子スイッチと、後者は原虫スイッチとの複合体の構造解析を試みた。その結果、前者については2種類の複合体の構造解析に成功し、フッ素原子とRNAとの間に生じる新しい相互作用を発見した(原著論文2報)。また、後者については3種類の複合体のX線回折データの測定に成功し、構造解析を進めている。現在は、高いリードスルー活性を示した5種類の化合物とヒトリボソームRNA分子スイッチとの複合体の結晶化と、新しいフッ素化アミノグリコシドの設計・合成を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、構造研究に用いる種々のRNA分子スイッチを導入したモデル分子とアミノグリコシドの設計と化学合成、そしてRNAモデル分子単体およびモデル分子とアミノグリコシドの複合体の結晶化実験を計画していた。 モデル分子に関しては細菌(野生型・薬剤耐性型)、原虫、ヒト(細胞質・ヒトミトコンドリア)の5種類の異なる分子スイッチを導入したものを化学合成し、アミノグリコシドに関しては合計12種類を化学合成した。そして、これらを様々な組み合わせで共結晶化させたところ、多数の結晶が得られた。得られた結晶について高エネルギー加速器研究機構・Photon Factoryの構造生物学ビームラインでX線回折実験を行った。 細菌(野生型・薬剤耐性型)分子スイッチとアミノグリコシドの複合体についてはすでに構造解析に成功したものもあり、査読付き国際学術誌論文2報(ACS Chemical Biology誌、Chemical Science誌)、日本語紹介記事1件、国際学会ポスター発表1件、国内学会口頭発表1件、国内学会ポスター発表2件として報告した。さらにこの成果はアメリカとイギリスのニュースサイト4件(Chemistry World、Scientific American、Chemical & Engineering News、Life Science Weekly)で報道された。原虫分子スイッチとアミノグリコシドの複合体については現在構造解析を進めている。ヒト(細胞質・ミトコンドリア)分子スイッチ単体の構造解析にも成功しており、国際学会ポスター発表3件として報告した。ヒト分子スイッチとアミノグリコシドの複合体については結晶化実験を進めているところである。 以上を総合すると、本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、前年度に完了できなかった原虫リボソームRNA分子スイッチと3種類のパロモマイシン複合体の構造解析を進める。また、本研究の最も重要な課題であるヒト細胞質リボソームRNA分子スイッチと新規アミノグリコシドの共結晶化を現在進めており、すでに数種類の結晶が得られていることから、平成27年度中にこれらのX線回折実験と構造解析を完了させたい。また、前年度に得られたフッ素化アミノグリコシドと細菌リボソームRNA分子スイッチとの相互作用様式の詳細な情報を基に、ヒト細胞質リボソームに選択的に結合する新規フッ素化アミノグリコシドの設計と化学合成を平成27年度中に完了させたい。以上の計画を順調に遂行できれば、リードスルー活性が高く副作用の低い薬剤の設計・開発という最終目標の達成に必要な構造情報が十分に得られる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は、研究費を主に化学合成RNAと結晶化用試薬・器具の購入に充てたものの、想定していた以上に順調に結晶化実験に成功した。そのため、化学合成RNA(1サンプル約100,000円)の購入を必要十分な量に抑えたため、次年度使用額として324,561円が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は、すでに化学合成が完了しているアミノグリコシドと、新規に設計・化学合成するアミノグリコシドについて、ヒト細胞質リボソームRNA分子スイッチとの共結晶化を行う。そのためには大規模な結晶化条件のスクリーニングが必要になるため、次年度使用額として生じた324,561円は主に化学合成RNA(ヒト細胞質分子スイッチのモデル分子)の購入に充てる予定である。
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