研究課題
難治性すい臓がんに有効な抗がん剤の作成を目指し、がん組織集積性と組織浸透性を持つ、高分子化抗がん剤に関する検討を行うことを目的とした。本研究期間内では(1)高分子化抗がん剤に内包する抗がん剤の選択、(2)皮下担がんモデルにおける薬物集積性、抗がん効果、(3)組織浸透性に関して検討を行った。(1)各種アントラサイクリン系抗がん剤を用いて検討を行ったところ、ドキソルビシン(DOX)やエピルビシンなどと比較して、ピラルビシン(THP)の細胞内取り込みは数十倍速く、細胞傷害性も高いことを明らかにした。さらに、高分子ポリマーを用いて高分子化(P-DOXまたはP-THP)したところ、細胞内取り込みおよび細胞傷害性は、P-DOXと比較してP-THPは10倍程度高いことを明らかにした。(2)SUIT2(ヒトすい臓がん)担がんマウスを用い、薬物動態を検討したところ、投与24時間以降においては、主要臓器(肝、肺、脾、膵、腎、心)と比べ、がん組織では2倍以上の薬物濃度が得られた。P-DOXとP-THPのがん集積性に大きな差は見られなかったが、P-THPにおいて高い抗がん作用が得られた。他にもS-180皮下移植がんならびに化学発がん大腸がんモデルにおいても、P-THPの高い抗がん効果を明らかにしている。(3)組織浸透性に関してスフェロイドを用い検討を行った。当初は高分子化により、組織浸透性が減弱するものと予想していたが、THPはスフェロイド表面に多く分布するのに比べ、P-THPはスフェロイド内部まで、均等に薬物が分布しうることを明らかにした。P-THPはがん組織に高濃度に集積し、組織内部に浸透後、細胞内に取り込まれ、高い抗がん効果を発揮する、優れた高分子化抗がん剤であることを明らかにした。しかし、同所移植すい臓がんに対しては、顕著な抗がん効果が見られなかったため、P-THPの改変などを含め今後の課題としたい。
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