研究課題/領域番号 |
26860034
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
磯部 洋輔 独立行政法人理化学研究所, 統合生命医科学研究センター, 特別研究員 (80724335)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ω3脂肪酸 / 抗炎症作用 / 線維芽細胞 / リピドミクス |
研究実績の概要 |
ω3脂肪酸に固有の代謝経路として、エイコサペンタエン酸(EPA)のω3位に水酸基が付加した18-hydroxy EPA(18-HEPE)、及びその下流で生成する抗炎症性代謝物レゾルビンE3(RvE3)に着目し、その産生機構と作用機構の解明に向け研究を進めている。平成26年度においては、まず18-HEPEの産生細胞として血管内皮細胞に加えてマクロファージを新たに見いだした。さらに、脂肪酸代謝関連酵素のクローニングを進めると共に、それらを培養細胞に発現させて活性を評価する系の構築を進めた。とくに、得られた培養液から脂質を抽出し、高速液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析計(LC-MS/MS)を用いたリピドミクス解析を行う過程のハイスループット化をはかり、脂肪酸代謝をゲノムワイドに評価する系の構築に成功した。 作用機構の解析については、RvE3の受容体探索を進めると共に、平成26年度においてはその前駆体である18-HEPEにも活性を見いだした。具体的には、線維芽細胞からの炎症性サイトカインの放出を、ナノモルレベルの18-HEPEが抑制する作用を示した。この作用は同濃度のRvE3では認められず、ω3脂肪酸に固有の代謝経路の生体調節機能として18-HEPEそのものの関与が新たに示唆された。さらに、マウスの心不全モデルを用いた解析から、18-HEPEの投与により圧負荷依存的な心臓の線維化が抑制され、それに伴い心機能の低下も抑制されることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ω3脂肪酸に固有の代謝経路の生成機構と作用機構の解明に向けて、順調に研究が進展しているものと考えられる。まず、生成機構については18-HEPE産生細胞としてマクロファージを新たに見いだした。マクロファージは様々な免疫調節機能への関与が広く知られており、18-HEPEの産生機構だけでなく、その炎症・免疫応答における本代謝経路の意義の解明にもつながり得るものと考えられる。さらに、培養細胞を用いた脂肪酸代謝物のゲノムワイドな活性評価系を構築したことで、18-HEPEの生成機構のみならず、脂肪酸代謝の分子メカニズムについて広く知見が得られるものと大いに期待される。 作用機構については、18-HEPEに線維芽細胞の活性化を抑制するという作用を見出し、心臓の線維化に対する18-HEPEの抑制効果が明らかになった。線維芽細胞の活性化及びそれに伴う組織の線維化は様々な疾患において認められるものであり、本知見はそうした疾患の病態生理の理解につながることが期待される。またこの結果は、従来RvE3をはじめとしたレゾルビンの前駆体という位置付けであった18-HEPE自身も活性代謝物として生体調節を担い得るという、新たな概念を提唱するものと考えられる。今後作用機構を分子レベルで明らかにすることで、ω3脂肪酸に固有の代謝経路の生理的意義の一端が明らかになるだけでなく、線維芽細胞を標的とした、新たな創薬ターゲットの創出にもつながるものと大いに期待される。
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今後の研究の推進方策 |
18-HEPE産生細胞としてマクロファージに着目し、脂肪酸代謝酵素の発現を解析し、18-HEPE産生酵素の候補を絞り込む。候補分子についてはこれまで築き上げてきた培養細胞による脂肪酸代謝評価系に適用し、18-HEPE産生酵素の同定を図る。一方で、ゲノムワイドな脂肪酸代謝の評価による、産生酵素の包括的なスクリーニングを行う。候補分子については発現組織・細胞を明らかにすると共に、発現の高い組織や細胞についてはLC-MS/MSを用いたリピドミクス解析により18-HEPEの産生量を解析する。また、候補分子を発現する細胞に対しsiRNAによるノックダウンやCRISPR/Cas9システムを用いたノックアウトを行い18-HEPEの産生量を解析することで、18-HEPE産生に対する当該分子の必要性を検証する。将来的には、18-HEPE産生酵素のノックアウトマウスを作製し、生理学的意義の解明を目指すことも視野に入れている。 作用機構の解析については、RvE3の標的細胞、及び受容体の探索を進めると共に、18-HEPEによる線維芽細胞の活性化抑制作用にも着目し、分子機構の解明を目指す。18-HEPEの作用について構造特異性を明らかにすると共に、線維芽細胞が活性化した際の細胞内シグナルを解析し、18-HEPEの作用点を絞り込む。線維芽細胞は遺伝子操作も比較的行い易いため、産生酵素の解析と同様にノックダウンやノックアウトの手法を駆使することで、作用点の同定を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計上していた経費のうち、旅費はほぼ予定通りの支出額となった。一方、消耗品の必要性が予定より少なくなったのに伴い、物品費が予定額より若干少なくなったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度に得られた結果から、今年度は遺伝子工学や生化学的解析の機会が増えることが予想されるため、次年度使用額として計上した分については物品費として用いることを計画している。
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