エイコサペンタエン酸(EPA)をはじめとしたω3脂肪酸には古くから抗炎症作用をはじめとした健康増進効果が知られている。我々は、EPAのω3位の二重結合が酸化修飾されることがω3脂肪酸の機能性の発揮に重要である可能性を見いだしており、その代謝を担う酵素、及び活性代謝物の標的分子の同定を目指している。 平成27年度においては、前年度に構築した、培養細胞を用いた脂肪酸代謝関連酵素の一過性発現系によるゲノムワイドな活性スクリーニングを進め、シトクロムP450(CYP)の一部にEPAのω3位の酸化活性を見いだした。また、見いだされた酵素について、基質特異性、脂肪酸の酸化位置の特異性、酸化反応の立体選択性について詳細な検討を行い、酵素ごとの活性の違いを明らかにした。CYPはマウスに約100種類、ヒトに約60種類存在するが、本年度においてはそのクローニングを前年度に引き続き進め、現時点でうち8割以上の酵素をカバーするシステムへと成熟させることができた。このシステムはω3脂肪酸の代謝に限らず、様々な低分子化合物の代謝研究へ応用できるものと期待される。 また、EPAのω3位が酸化された18-HEPE、及び18-HEPEから生成する活性代謝物であるレゾルビンE3(RvE3)の標的分子を明らかにするため、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)の活性化を指標にしたスクリーニングを行った。その結果、それぞれの代謝物の投与により活性化するGPCRを見いだすことに成功した。さらに、平成26年度において繊維芽細胞を抑制する活性が見いだされた18-HEPEの細胞内動態を本年度詳細に解析した結果、細胞の生体膜リン脂質中に取り込まれることが明らかになり、18-HEPEの新たな作用点の候補として膜リン脂質の関与が考えられた。
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