研究課題/領域番号 |
26860036
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高畑 佳史 大阪大学, 歯学研究科(研究院), 助教 (60635845)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 時計遺伝子 / 概日リズム / 転写因子 |
研究実績の概要 |
地球上の多くの生物には、睡眠覚醒や体温、血圧、ホルモン合成や免疫機能など様々な生理現象を支配する約24時間周期の概日リズムが見出される。 概日リズム形成を担う転写・翻訳のフィードバック機構に関わる新規分子機構の解明とそれに作用する化合物等の探索を行うことを目的とするため、本研究では、Period1 (Per1)のmRNA発現を特異的に誘導する化合物のスクリーニングを行った。その結果、いくつかの候補分子を得ることができ、中でも最も特異的、かつPer1誘導能が高い化合物を選択し、このPer1誘導能の作用メカニズムについて検討を行った。 Per1プロモーターの上流5kbの中には5つのE boxが存在する。スクリーニングで得た化合物がE boxを介してPer1の発現を誘導するのかどうか検討を行った。まず、Per1プロモーター上流5kbをルシフェラーゼに連結したレポーターベクターを作成し、Bmal/Clock結合能を失う変異型E boxをそれぞれのE boxに置換したレポーターベクターも同時に作成した。これらのレポーターベクターをNIH3T3細胞に遺伝子導入を行い、スクリーニングで得た化合物を処理し、得られたルシフェラーゼの活性を測定した。その結果、特定のE boxに対してのみ、ルシフェラーゼ活性が上昇し、この化合物は特異的なE boxを介してPer1の発現を誘導することが明らかとなった。この新事実は未だかつて報告されていない新事象であり、概日リズム形成の新規分子機構の存在を示唆するものである。 来年度は、化合物によるPer1誘導のさらなるメカニズムの解析と、Bmal/Clock, Cryを含めた作用機序についての検討を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、Per1特異的な誘導能を持つ化合物をスクリーニングによって得ることができた。さらにその作用メカニズムの解析を行った結果、特定のE boxを介してPer1の転写を促進することを明らかにした。この発見は未だかつて報告されていない新事象であり、概日リズム形成を担う時計遺伝子の新規分子機構の解明のための大きな手掛かりになる結果である。 本研究課題を始めた当初は全く新規分子機構の発見の手掛かりすらつかめていなかったが、この新事象を発見できたことによって今後の検討課題も設定できたことから、研究はおおむね順調に発展していると考える。今後はPer1誘導に関する他の転写因子も含めた詳細なメカニズムの解析を行う必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、特定のE boxを介してPer1の転写を誘導する化合物をスクリーニングによって得ることができた。今後検討すべき課題は、特異的なE boxを介してPer1の転写を誘導するのかについてのメカニズムを明らかにすることである。 まず初めにこのE boxを介してPer1の転写を誘導する転写因子はBmal/Clock依存的かどうかを決定する。そのためには、CRISPR/Cas9と特定の塩基配列を認識できるガイドRNA (gRNA)を用いたゲノム編集技術によって、Bmal1, Clockをそれぞれノックアウトした細胞株を作成する。その細胞株に対してスクリーニングで得た化合物を処理した後、Per1のmRNA発現上昇について検討を行う。同様のゲノム編集技術を用いて目的のE box配列を除去した細胞株も作成し、この細胞に化合物処理を行い、Per1のmRNA発現を検討する。これらの実験を行うことで、化合物の作用はBmal/Clock依存的かどうか、また内在性のプロモーターのE boxを除去することで特定のE boxが実際に機能しているかの確認が可能である。 さらにこの化合物が生物リズムにどのような影響を与えるかどうか検討を行う。12時間の明暗サイクルの中で飼育したマウスを暗暗条件にし、化合物投与の時間条件を振って、マウス行動リズムに与える影響についてロコモーターを用いて検討を行う。 以上の実験を行うことで、時計遺伝子の新規分子機構の発見の詳細が解明されるとともに、化合物が生物リズムを改善するような作用を持つ場合、創薬的観点からも有用である。不規則な生活、時差ぼけなど生物リズムの異常は、睡眠障害、鬱など精神疾患の原因にもなり、深刻な症状を抱えている人も多く存在する。今後は時計遺伝子をターゲットとした薬剤の開発も視野に入れ研究を推進していくことを目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究ではPer1を誘導する化合物のスクリーニングを行い時計遺伝子に作用する機能を持つことを明らかにした。ところが、最初にスクリーニング化合物を得ることができたのは、当初予定していた計画よりもやや遅れてからであった。本年度ではその化合物の作用メカニズムの解析をある程度すすめる予定であったが、その化合物の作用メカニズムの検討を始める時期が遅くなってしまい、それに伴って年度内に使用予定の費用を翌年に繰り越す必要が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度ではスクリーニングで得た化合物のPer1誘導能のメカニズムを解析するため、CRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いて、Eboxに結合する転写因子群のノックアウト細胞株を作成する。そのため、次年度使用額は、gRNA発現ベクターの構築を行うための合成オリゴDNAの作成に充てる。
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