地球上の多くの生物には、様々な生理現象を支配する約24時間周期の概日リズムが存在し、時計遺伝子群の緻密な転写制御、翻訳制御機構により体内時計の振動の自律性が保たれている。CLOCK/BMAL1複合体がEbox 配列に結合すると、Per1の転写が誘導されるが、同時に誘導されるCRYPTOCHROME (CRY) はCLOCK/BMAL1複合体に結合しその機能を抑制する。Per1遺伝子は光刺激によって誘導され、行動リズムと光同調に関わる遺伝子として重要であることは従来より示されてきたが、機能については未だ不明な点が多い。そこで、Per1遺伝子の発現誘導を指標にした化合物ライブラリを用いて、Per1特異的誘導能を持つ新たな化合物を同定した。 平成26年度は主に化合物の薬理作用を解析した。Per1の上流約5kbのプロモーターには5つのEboxが存在し、これらのEboxをCas9ゲノム編集法により欠損させた細胞を作成した。特定のEboxを欠損した細胞では化合物によるPer1誘導能は消失した。またBmal1欠損マウスから調製した線維芽細胞に対して化合物を作用させても、Per1の誘導は見られなかった。以上の結果から、この化合物は特定のEboxを介してCLOCK/BMAL1依存的に作用することが明らかとなった。 最終年度では化合物の時計タンパク質に対する影響について検討した。この化合物によるPer1の誘導はCRYによって抑制されず、PER2によって完全に抑制された。さらにこの化合物を処置した細胞内ではCLOCK/BMAL1に対するCRYの結合能が増加することが明らかとなった。さらに質量分析を用いた解析からCRYタンパク質と化合物との相互作用が検出できた。以上の結果より化合物はCRYに直接作用し、CLOCK/BMAL1に対する転写抑制能を消失させる機能を持つことを明らかにした。
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