研究課題
本研究の目的は脂肪組織由来の間葉系幹細胞(脂肪幹細胞)に高発現している遺伝子の機能を明らかにし、脂肪幹細胞の数と性質が一生を通じて維持される分子メカニズムを解明することにある。平成26年度は脂肪幹細胞において高発現するGタンパク質共役型受容体(Gpr116/153)と核内受容体(Nr4a1/2/3)のクローニングを完了し、脂肪前駆細胞に強制発現させることで、その機能解析を行った。Gpr116とGpr153については脂肪分化に対する作用は認められなかった。一方で、Nr4a1、Nr4a2、Nr4a3をそれぞれ脂肪前駆細胞に発現させて脂肪分化条件下で培養すると、いずれも脂肪分化は抑制された。また、Nr4a1、Nr4a2については増殖抑制作用も認められた。一般的に、組織幹細胞の数や性質を維持する遺伝子は、in vitroにおいて分化抑制作用や増殖抑制作用を示す。従って本研究により、Nr4a1/2/3が脂肪幹細胞の維持に働くことを示唆する成果が得られた。また、Nr4a1/2/3の機能を解明する過程で、Nr4a1/2/3の発現を誘導する因子Gpr3を見出した。Gpr3はリガンド非依存的に活性化するGタンパク質共役型受容体であり脂肪幹細胞において高発現している。Nr4a1/2/3と同様にGpr3も脂肪前駆細胞に発現させると脂肪分化を抑制した。従ってGpr3からNr4a1/2/3に至るシグナル経路が脂肪幹細胞の維持に重要であると考え、詳細な機能解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度は、脂肪幹細胞において高発現するGタンパク質共役型受容体(Gpr116/153)と核内受容体(Nr4a1/2/3)の機能解析をin vitroにおいて行う計画を立てた。予定していたこれら6種類の遺伝子クローニングは5種類まで完了した。クローニングした遺伝子の強制発現細胞を作製し、機能的表現型を示すNr4a1/2/3を見出すことができたことから、成果としては順調に進展したと言える。遺伝子改変マウスを用いて脂肪幹細胞におけるmicroRNAの意義を解析する実験には着手できなかったが、興味深いことに、Nr4a1/2/3の発現を誘導する因子としてGpr3を新たに見出すことができ、その機能解析まで行った。
平成27年度は、Nr4a1/2/3遺伝子がin vivoで脂肪幹細胞の増殖・分化を制御しているか明らかにするため、脂肪幹細胞特異的な遺伝子欠損マウスを作製する。PDGFRa遺伝子プロモーターの制御下でCreトランスジーンを発現するマウス(PDGFRa-CreERマウス)とNr4a1/2-floxedマウスを交配する。交配により作製されたマウスにタモキシフェンを投与するとCre-loxPシステムにより脂肪幹細胞特異的にNr4a1/2遺伝子が欠損する。Nr4a1/2を欠損した脂肪幹細胞がin vivoにおいて未分化性を維持できているか否かは C/EBPa及びPPARgの発現を蛍光免疫染色法にて定量することで評価する。これらの実験から、脂肪幹細胞の数・性質を維持するためにNr4a1/2/3が必須であるかがin vivoで明らかとなる。本実験に必要なPDGFRa-CreERマウスは上住聡芳博士(藤田保健衛生大学・総合医科学研究所)から提供を受けることを承諾済みである。Nr4a1/2-floxedマウスについても一瀬宏博士(東工大・生命理工)とPierre Chambon博士(IGBMC, France)に提供を依頼してMTAの締結を完了した。したがって本研究計画を推進する体制は整っている。
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