研究課題
本研究の目的は脂肪組織由来の間葉系幹細胞(脂肪幹細胞)に高発現している遺伝子の機能を明らかにし、脂肪幹細胞の数と性質が一生を通じて維持される分子メカニズムを解明することにある。これまでにGタンパク質共役型受容体(Gpr3)と核内受容体(Nr4a1/2/3)は脂肪幹細胞において高発現していることを見出し、脂肪分化を抑制することを明らかにした。平成27年度はこれらGpr3とNr4a1/2/3が脂肪分化を抑制する詳細な分子メカニズムの解析を行った。Gpr3はリガンド非依存的に活性化するGタンパク質共役型受容体であり、細胞内cAMP/cGMP濃度を増加させることが報告されている。また、脂肪分化培地に含まれるイソブチルメチルキサンチン (IBMX) はホスホジエステラーゼを阻害しcAMP/cGMP濃度を増加させることで脂肪分化を促進させる。Gpr3とIBMXの相反する分化調節作用を詳細に解析した結果、Gpr3はIBMXの存在下では脂肪分化を抑制し、IBMXの非存在下では促進することが明らかとなった。さらにGpr3の作用はcAMPアナログの添加により代替され、PKA阻害剤により抑制された。これらの結果から、Gpr3はcAMP/PKAシグナルを介して脂肪分化を調節することが示唆された。さらに、cAMPアナログはNr4a1/2/3の発現を上昇させ、脂肪分化を抑制した。Gpr3を発現させた脂肪前駆細胞ではNr4aの発現上昇が認められることから、Gpr3がcAMP/PKA経路を介してNr4a1/2/3の発現を誘導し、脂肪分化を調節している可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度は、Gタンパク質共役型受容体(Gpr3)と核内受容体(Nr4a1/2/3)の脂肪分化調節作用について、その詳細な分子メカニズムを解明する計画を立てた。Gpr3がcAMP/PKA経路を介してNr4a1/2/3の発現を誘導し、脂肪分化を調節している可能性を示すことができたことから、成果としては順調に進展したと言える。これらin vitroの実験より得た結果を踏まえて、現在は脂肪幹細胞特異的なNr4a遺伝子欠損マウスを作製し、生体内(in vivo)の脂肪幹細胞における機能を検証している。
平成28年度は、作製した脂肪幹細胞特異的なNr4a遺伝子欠損マウスを解析し、Nr4a遺伝子がin vivoで脂肪幹細胞の増殖・分化を制御しているか明らかにする。また、脂肪分化に必要なC/EBPalpha及びPPARgammaの発現をNr4aが抑制する詳細な分子メカニズムは未だ明らかになっていない。Nr4aはホモ二量体やRXRとヘテロ二量体を形成し、特定のDNA配列に結合して機能を発揮すると報告されている。そこで脂肪分化抑制時において、Nr4aの二量体形成能やC/EBPalpha及びPPARgammaのプロモーターへの結合能を検討する。
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