TRBファミリータンパク質は高度に保存されたserine/threonine kinase様ドメインを持っているがkinase活性を持たないpseudokinaseである。また、他のタンパク質と結合することでシグナル伝達など様々な細胞内の機能を調節することが知られている。TRB1はこれまでに脂質代謝や白血病、精巣癌への関与が報告されているが、がんに対する機能について未だ十分には解明されていない。一方、TGFβは細胞増殖や分化、アポトーシス、免疫応答など多彩な細胞応答に関与するサイトカインであり、上皮細胞に対して強い増殖抑制作用を示すこと、がん転移に対しては促進的にはたらくことなど二面性をもっていることが知られている。 前年度までの研究において、ヒト肝癌由来細胞株HepG2において、TRB1はTGFβのシグナル伝達分子Smad3の活性を抑制することを見いだした。そして、TRB1はSmad複合体形成やSmad3の転写活性化能には影響しないことを明らかにした。本年度の研究により、TRB1はSmad2/3のDNAの結合を阻害することでSmad活性を抑制することを見いだした。一方、ヒト肺癌由来細胞株A549においては、HepG2とは異なり、TRB1はTGFβによるがん転移に関わる標的遺伝子の発現誘導を亢進することが明らかになった。以上の結果から、標的遺伝子や細胞に応じてTRB1はTGFβシグナルを制御をしていることが推察された。
|