肝細胞増殖因子(HGF)のプロテアーゼ分解産物であるHGFβ鎖(HGF-β)はマンノース受容体(MR)を受容体とし、IL-4共存下においてSTAT3活性を増強することでマクロファージのIL-10産生を高めることが明らかとなった(前年度)。今年度は以下の解析を行い、HGF-βがIL-10産生を高める分子機構の詳細について、特にSTAT3に注目して研究を進めた。 (1) STAT3チロシンリン酸化増強のメカニズム:IL-4は受容体に結合し、JAKファミリータンパク質をリン酸化することで下流のSTAT3活性化をもたらす。今回、HGF-βはIL-4によるJAK1、JAK2およびJAK3のリン酸化を促進することが分かった。このメカニズムとして、HGF-β刺激によってMRとIL-4受容体が会合し、JAK活性化が促進されることを想定したが、MRとIL-4受容体の相互作用は共免疫沈降実験では認められなかった。 (2)STAT3セリンリン酸化を介したSTAT3核内移行の促進:STAT3はそのセリンリン酸化によって核内に移行し、転写因子として働く。マクロファージに対してIL-4とともにHGF-βを作用させると、IL-4刺激単独と比較してSTAT3の核内移行が亢進した。また、HGF-βはERKを活性化させ、STAT3のセリンをリン酸化することも分かった。そこでERK活性化を阻害すると、STAT3セリンリン酸化が抑制されSTAT3の核内移行が減少するとともに、HGF-βによるIL-10産生促進活性もキャンセルされた。 今年度の研究によって、HGF-β・MR系がIL-10産生を高める分子メカニズムとして、(1)JAKリン酸化促進によるSTAT3チロシンリン酸化の増強、(2)ERK活性化によるSTAT3セリンリン酸化を介したSTAT3核内移行の促進、を明らかにすることができた。
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