研究課題/領域番号 |
26860050
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
柴田 識人 国立医薬品食品衛生研究所, 遺伝子医薬部, 主任研究官 (30391973)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 酸化コレステロール |
研究実績の概要 |
重篤な疾患を引き起こすウィルスは数多く存在するが、ウィルスごとに構成蛋白質や生活環が異なることや、容易に遺伝子変異することなどから、抗ウィルス治療薬の充足率は決して高くない。申請者は酸化コレステロールである25ヒドロキシコレステロール(25OHC)が宿主細胞の生存に影響を与えずに、ウィルスの複製を抑制することを見出した。本研究では、25OHCによる抗ウィルス機構を解明し、新たなウィルス治療薬開発の基盤とすることを目的としている。 25OHCが抗ウィルス活性を発揮する際、酸化ストレスを認識するキナーゼEIF2AK4 (Eukaryotic translation initiation factor 2α kinase 4) を介した翻訳制御因子eIF2αのリン酸化が起きる。まず25OHCによるeIF2αのリン酸化によって翻訳停止による蛋白質合成の全般的な抑制と様々なストレス応答遺伝子の発現が増加することを申請者は明らかにした。また25OHCによるeIF2αのリン酸化に、EIF2AK4とは別のキナーゼも関わり、その分子機構にユビキチン-プロテアソーム系の関与が示唆された。次に25OHCがどのようにどのように受容され、その情報がeIF2αに伝達されているか解明を目指すべく、これまでに既知の25OHC結合蛋白質について検討した。培養マクロファージ細胞においてsiRNA による発現抑制実験を行ったところ、あるG蛋白質共役受容体が25OHCの認識に関わっていることが分かったが、それ以外の既知25OHC結合蛋白質は25OHCによるストレス応答遺伝子の発現増加に影響を与えなかった。 以上の結果は、25OHCの抗ウィルス活性に蛋白質合成の全般的な抑制とストレス応答遺伝子の発現誘導が関わること、及びウィルス治療薬の標的としてこのG蛋白質共役受容体が有望であることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
25OHCによるeIF2αのリン酸化誘導機構に関わる因子の探索として、本年度は25OHCの受容機構の解明を試み、あるG蛋白質共役受容体が25OHCの認識に関わっていることが分かった。同定されている関連因子はこのG蛋白質共役受容体一つであり、全容解明にはまだ遠い。従ってより詳細な分子機構の解明やさらなる関連因子の同定は必要だが、このG蛋白質共役受容体自体、あるいはその下流シグナル経路の関与を検討することで、こうした点が解明されることが期待される。また本研究の目的は、25OHCによる抗ウィルス機構を利用した新たなウィルス治療薬開発の基盤研究であるが、創薬標的になりやすいG蛋白質共役受容体が見出せた意義は大きい。このような理由から本研究はおおむね順調に進展したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、本年度の同定されたG蛋白質共役受容体の関与も含め、25OHCによるeIF2αのリン酸化誘導に関して、より詳細な分子機構の解明やさらなる関連因子の同定を目指す。また25OHCによるeIF2αのリン酸化を介したストレス応答遺伝子の発現誘導機構についても解析を進め、その分子機構の解明を目指すと共に、最終的にはこれが25OHCによる抗ウィルス機構にどのように関与するか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を効率よく進めるべく、25OHCによるeIF2αのリン酸化機構に焦点を絞って行ったところ、物品費およびその他について当該助成金が生じた。 旅費については、3月に行った学会発表に関わる旅費の精算が所属研究所の経理上のルールで翌年度に持ち越されたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は25OHCによるeIF2αのリン酸化機構のさらなる解析のみならず、eIF2αのリン酸化後の細胞内イベントの検討も行うため、必要な一般試薬や培養等に用いるプラスチック器具などとして相当額を使用する予定である。
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