研究実績の概要 |
重篤な疾患を引き起こすウィルスは数多く存在するが、ウィルスごとに構成蛋白質や生活環が異なることや、容易に遺伝子変異することなどから、抗ウィルス治療薬の充足率は決して高くない。これまでに酸化コレステロールである25ヒドロキシコレステロール(25OHC)が宿主細胞の生存に影響を与えずに、ウィルスの複製を抑制することを見出している。本研究では、25OHCによる抗ウィルス機構を解明し、新たなウィルス治療薬開発の基盤とすることを目的とする。 25OHCが抗ウィルス活性を発揮する際、酸化ストレスを認識するキナーゼEIF2AK4 (Eukaryotic translation initiation factor 2α kinase 4) を介した翻訳制御因子eIF2αのリン酸化が起きることをこれまでに明らかにしている。本研究では、まず25OHCによるeIF2αのリン酸化によって翻訳停止による蛋白質合成の全般的な抑制と様々なストレス応答遺伝子の発現が増加することを明らかにした。次にこの分子機構の解明を試み、下記3点を明らかにした。 (1)25OHCによるeIF2αのリン酸化に際し、25OHCを受容し、その情報をeIF2αに伝える装置が想定されるが、そのような受容機構としてあるG蛋白質共役受容体の関与を明らかにした。 (2)25OHCによるeIF2αのリン酸化に、EIF2AK4とは別のキナーゼも関わり、その分子機構にユビキチン-プロテアソーム系の関与する事を明らかにした。 (3)上記(1), (2)で受容された情報は、ATF4, NRFなどの転写因子をマスターレギュレーターとして、ストレス応答遺伝子の発現誘導に繋がる事を明らかにした。 以上の結果は、25OHCによる抗ウィルス機構を基盤とした新たなウィルス治療薬開発において、有望な創薬標的を提示するものである。
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