研究課題/領域番号 |
26860052
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研究機関 | 独立行政法人国立長寿医療研究センター |
研究代表者 |
住岡 暁夫 独立行政法人国立長寿医療研究センター, 分子基盤研究部, 室長 (00431320)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / タウ / 脂質 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)は最も患者数の多い認知症であり、根本療法の開発が望まれる。ADの病理学的特長のひとつ神経原繊維変化の主要構成成分は凝集したタウ蛋白質である。そしてタウの凝集はADの原因の一つであると考えられており、このタウの病変の仕組みを明らかにし、防ぐ必要がある。 本研究提案で私は、膜脂質成分の代謝異常によるAD発症モデルを検証する。これまでにタウが特異的に結合する脂質成分X1を同定している。このX1は複数の研究グループから、AD患者やADモデルマウスの脳内で発現の低下している事が報告されている。そこで私はこの脂質X1に注目し、研究目標Ⅰ 膜脂質成分の代謝異常によるタウの病変形成の検証、研究目標Ⅱ 膜脂質成分の代謝異常の機序の解明、に取り組む。 平成26年度は、研究目標Ⅰ について、神経細胞内の膜脂質成分の調節法の確立を目指した。その結果、X1に蛍光基NBDを付加したX1-NBDを培地に投与し細胞内への取り込みを確認した。また、生体内での脂質X1の作用を検討するため、X1の合成酵素遺伝子を欠損させたマウスを利用する。これを目的に、X1合成酵素遺伝子欠損マウスを繁殖・育成した。 研究目標Ⅱ について、脂質成分X1と前駆体脂質成分の定量法の確立を目指した。その結果、抗体ドットブロット法による脂質成分X1と前駆体脂質成分の検出法を確立した。また、X1の内在性の合成・代謝酵素の検出を目指した。その結果、2つの内1つの合成酵素と、代謝酵素について、マウス脳内の内在性分子のwestern blot方による検出を確立した。もう1つの合成酵素については引き続き平成27年度に抗体を作成し、検出を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目標Ⅰ について、脂質成分X1の外部投与による細胞内への取り込みを確認し、細胞内膜脂質成分の調節に成功した。また、X1合成酵素遺伝子欠損マウスを繁殖・育成し、現在、複数のlittermatesをタウの病変の検証に使用可能である。以上の通り、平成26年度に予定した神経細胞内の膜脂質成分の調節法の確立を達成した。 研究目標Ⅱ について、抗体を用いたドットブロット法による脂質成分X1と前駆体脂質成分の検出法を確立した。また、脂質成分X1の2つの合成酵素の内1つと、代謝酵素について、マウス脳内の内在性分子のwestern blot法による検出を確立した。以上の通り、一部の合成酵素分子の検出を除き、平成26年度に予定した脂質成分X1と前駆体脂質成分の定量法確立と内在性の合成・代謝酵素の検出大部分を達成した。
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今後の研究の推進方策 |
研究目標Ⅰ について平成27年度は、平成26年度の成果を元に脂質X1によるタウの病変を検証する。タウの病変に関しては、局在の異常を生化学的分画法と免疫染色法で観察する。タウのリン酸化修飾の増減を、SDS-PAGE上での泳動度の変化、リン酸化抗体・脱リン酸化抗体によるWestern Blotで観察する。タウの凝集については、サルコシル法などで検出を試みる。 研究目標Ⅱ について、ADモデルマウスの脳内X1の発現低下を追試する。AD原因遺伝子APP / PS1 を導入したマウスの皮質から古典的なFolch法で脂質を抽出し、脂質中のX1量を定量する。 APP / PS1 マウスにおけるX1量の低下を追試した上で、代謝異常の機序の解明に取り組む。X1の局在分布を抗X1抗体による免疫染色法で観察し、野生型マウスとAPP / PS1 マウスにおける局在変化の有無を観察する。X1合成酵素・分解酵素の発現を、マウス脳から生化学的分画法によって回収した膜画分をSDS-PAGEで分離し、Western Blot法で観察する。 平成26年度に達成できなかったもう一つの内在性X1合成酵素の検出については、引き続き抗体を作成し、検出を試みる。 以上に関して、ヒトとマウスの種差から、特に凝集形成について十分な病変の観察ができない可能性がある。必要に応じて、ヒト型タウ遺伝子を導入したマウス、またはヒト型タウのFTDP-17変異遺伝子を導入したマウスの利用を検討する。また、場合により顕著に差を検出するため加齢条件を選ぶ必要になる可能性がある。この場合は、該当のマウスについて6ヶ月齢から1ヵ年齢を目処に加齢個体を育成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年に研究目標Ⅱについて脂質成分の定量法確立と、内在性のX1合成・代謝酵素の検出を予定していた。この内、脂質成分X1抗体について、東医研・川島育夫先生よりハイブリドーマの提供を頂けた。前駆体脂質成分とX1合成酵素の一つ・X1分解酵素については、市販の抗体で十分な抗体価が得られた。一方、もう一つの合成酵素について、抗原とするリコンビナント蛋白質の精製するにあたり、予想を超える条件検討を要した。その結果、抗原蛋白質の調製を平成26年中に終えることができなかった。以上の通り、平成26年に予定していた抗体作製について、それぞれ外部供与、市販抗体の利用、抗原調製の遅れから実施されなかったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年に予定していた抗体作製について、一部は抗原精製の遅れのため実施できなかった。現在はすでに、抗原とするリコンビナント蛋白質の精製の条件検討を終えており、本来の予定どおり抗体作製費用に使用する。
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