本研究で私は、膜脂質成分の代謝異常によるAD発症モデルを検証してきた。これまでにタウが特異的に結合する脂質成分X1を同定した。このX1は、AD患者やADモデルマウスの脳内で発現の低下している事が報告されている。そこで私はこの脂質X1に注目し、内在性X1によるタウの病変形成の検証と作用機序の解明、に取り組んできた。昨年度までに、タウの病変に関与するリン酸化部位の同定と、細胞系でのタウの凝集試験モデルを構築し、その結果、発症に酸化ストレスの関与することが示唆された。そこで、本年度はタウの病変形成への酸化ストレスの作用について、細胞系及びマウス個体モデルで検証した。 タウの病変形成への酸化ストレスの作用を検証するため、脂質成分X1を欠損させたタウリン酸化モデルマウスに、メチル水銀を飲水投与し酸化ストレスを誘導し、中毒症状の発症を観察した。オスでは、野生型のオスで9週間、メスで4週間のメチル水銀投与で行動異常などの中毒症状が観察され、一方で欠損型ではオスで5週間、メスで2週間の投与で中毒症状が観察された。以上の通り、タウリン酸化モデルマウスで、メチル水銀への顕著な脆弱性が確認された。培養細胞系では、昨年度に構築した病変型タウ変異体を発現する細胞にメチル水銀やDiethyl Maleateで刺激し、酸化ストレスの作用を検証した。その結果、野生型のタウに比べて変異型のタウで顕著なリン酸化増大作用が観察された。以上の結果から、タウの病変形成における酸化ストレスの作用が明らかになった。
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