研究課題/領域番号 |
26860053
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
笹島 仁 旭川医科大学, 医学部, 助教 (00374562)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 嗅覚輸送 / 神経変性 / ミトコンドリアストレス |
研究実績の概要 |
本研究は、嗅覚関連システムが関与する環境中化学物質に対する中枢神経の脆弱性の評価と、同システムの応用によるドパミン作動性神経細胞のミトコンドリアストレスへの脆弱性の解明を目指すものである。 近年、家族性の進行性中枢神経変性疾患における責任遺伝子の解析から、その病態の分子メカニズムが明らかになりつつある。一方で、孤発性の進行性中枢神経変性疾患の病因については不明な点が多い。従来の疫学調査あるいは動物個体への直接投与により、環境中化学物質は中枢神経変性を惹起しうるリスク要因の一つであることが示されている。鼻粘膜より吸収された化学物質は、嗅神経が介在する嗅覚輸送によって直接脳内へ送達されることが知られている。そこで、環境中化学物質の嗅覚輸送が、中枢神経変性を惹起する可能性が示唆されている。 ドパミン作動性神経細胞はミトコンドリア呼吸鎖の異常に高感受性であり、家族性パーキンソン病における発症機構はミトコンドリアストレスあるいは異常ミトコンドリアの蓄積に由来するドパミン神経変性によるものと考えられている。これまでの研究から、マウス鼻腔内に投与されたロテノンは、嗅覚輸送により嗅球へ達しミトコンドリアストレスを誘導することで嗅球内ドパミン神経細胞を傷害すること、ならびに嗅覚異常を引き起こすことを明らかにした。従来報告において、鼻腔内に投与されたロテノンはパーキンソン病における病変部位である中脳黒質ドパミン神経細胞に影響を及ぼさないとされている。しかしながら、本研究ではロテノンを鼻腔内投与されたマウスの中脳黒質において、ドパミン神経細胞の軸索変性を見出した。このことは、環境中化学物質の嗅覚輸送が、脳内の広範な領域において神経変性を誘導することを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの鼻腔内ロテノン投与マウスにおける中枢神経変性の解析から、嗅覚輸送経路は外界化学物質に対する脳の脆弱点となりうることが示された。本研究では、動物を用いた脳の脆弱点の解析に引き続き、ドパミン神経細胞における内在性の脆弱点についても解析を行う。 従来研究により、ドパミン神経細胞においてはドパミン代謝過程で神経毒性物質を生じることが示唆されている。しかしながら、ドパミン代謝毒性が生じる詳細な分子機構や、ミトコンドリアストレスとドパミン代謝毒性の関連については不明な点が多い。本年度は、いずれの代謝遺伝子がドパミン代謝毒性をもたらすか決定するため、また、いずれの代謝遺伝子がミトコンドリアストレスとのドパミン代謝毒性クロストークを生じうるか解析するため、ラット副腎由来PC12細胞に対しCRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集を行い、ドパミン代謝関連遺伝子の各種欠失細胞株を樹立した。 この各種ドパミン代謝遺伝子欠失PC12細胞株は、継続研究におけるドパミン代謝負荷試験、ミトコンドリアストレス負荷試験に利用され、ドパミン神経細胞における細胞内在性の脆弱点の解析に利用される。ゲノム編集に引き続く細胞選別、ゲノム構造確認が終了しており、本年度の研究計画はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
ドパミン神経細胞内在性の脆弱点の探索は、本研究課題においてこれまでに樹立された各種ドパミン代謝遺伝子欠失PC12細胞株を用いて行う。樹立細胞株に対し、L-DOPA添加によるドパミン過剰合成、メタンフェタミン投与による細胞内遊離型ドパミン増強、ロテノンによるミトコンドリア呼吸鎖抑制の各種代謝負荷を行い、細胞生残性によってドパミン代謝毒性を評価する。 ドパミン代謝毒性の評価においては、必ずしも単一の責任遺伝子同定に至るとは限らない。そこで、細胞生残性の解析において多要因関与が疑われた場合は、PC12細胞における多重遺伝子欠失細胞株を必要に応じ作製し、ドパミン代謝毒性評価に用いる。
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