ERMタンパク質は、スキャホールドタンパク質でありエズリン (Ezr)、ラディキシン (Rdx)、モエシン (Msn) を含む。パーキンソン病研究の過程で、それぞれのERMタンパク質がドパミン神経系だけでなくミクログリアにおいても生理的やパーキンソン病の病態において重要な役割を果たし、その機能制御の解明が、パーキンソン病の治療薬の創薬基盤となり得る可能性を見出した。これまでに、ERMタンパクファミリーのうちMsnは、ミクログリアの炎症性サイトカインtumor necrosis factor α (TNFα)の放出機構に関与していることを明らかにした。また、Msnを一過性にノックダウンしたマウスミクログリア・BV2細胞においてLPSを24時間処置したところ、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)の発現が有意に減少し、培養液に含まれる一酸化窒素(NO)量が有意に減少することを見出した。 今年度は、まずMsnのiNOSの制御に関して解析した。免疫沈降法などにより、直接的にMsnはiNOSに結合しないことを見出した。そこで、ERM Binding Protein 50 (EBP50)に着目した。EBP50を一過性にノックダウンしたBV2細胞においてLPSを24時間処置したところ、iNOSの発現が有意に減少した。また、免疫沈降法などにより、MsnはEBP50を介してiNOSと相互作用することを見出した。これらにより、Msnを介した炎症増悪因子の制御機構の一端を解明することができた。さらに、MsnノックダウンBV2細胞では、アクチン骨格の異常により、ファゴサイトーシス能が低下することを明らかにした。また、Msnノックアウトマウスにおいて、野生型マウスと比較して、LPS投与によるミクログリアの活性化が減弱した。これらの結果は、Msnを標的とした創薬研究の基盤になる可能性がある。
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