嚢胞性線維症(CF)は難治性遺伝性疾患であり、その病態形成には呼吸器感染症とそれに伴う慢性炎症が重要な役割を担う。本研究では、未だ適切な炎症治療法のないCFの呼吸器疾患に対しToll-like receptors(TLRs)のシグナル抑制分子であるSIGIRRを標的とした治療法を提起することを最終目標として掲げ、研究を遂行する。 本研究テーマにおいて実施する研究内容は以下の2点である。まず1つ目は、CF気道モデルにおけるSIGIRR発現低下機構の解明、2つ目は、CFにおけるSIGIRRの新規内因性リガンドであるIL-37の役割の解明とIL-37とSIGIRRを標的としたCF治療法の探索である。 当該年度は、まず1つ目の研究内容に沿って、正常およびCF気道上皮細胞における細胞質および細胞膜上SIGIRRタンパク質の発現量比較を行った。既に前年度の研究結果から、正常と比してCF細胞におけるSIGIRRのmRNA発現が低下していることを確認していたが、予想に反してCF細胞におけるSIGIRRタンパク質の細胞内発現量は正常細胞と同等であった。その要因として、CF細胞におけるSIGIRRタンパク質の安定化が寄与することも見いだした。 次に細胞膜上におけるSIGIRR発現量を比較したところ、CF細胞においてSIGIRRの細胞膜上発現量が顕著に減少しており、正常とCF患者由来初代培養気道上皮細胞を用いた場合でも同様の結果が得られた。 SIGIRRの内因性リガンドであるIL-37は炎症性刺激依存的に核内へ移行もしくは細胞外へ分泌され抗炎症作用を発揮することから、細胞膜上でのSIGIRR発現量減少はCF細胞の易炎症性状態に関与する可能性が示唆された。
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