研究課題/領域番号 |
26860065
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
住井 裕司 大阪大学, 薬学研究科(研究院), 特任助教(非常勤) (10612848)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 天然物 / 全合成 / 構造活性相関 / アナログ合成 / 細胞増殖抑制物質 / 抗結核物質 / ケミカルバイオジー |
研究実績の概要 |
私の研究室で開発した新規評価系を用いる探索研究によって見出された、低酸素微少環境選択的がん細胞増殖抑制物質 (+)-dictyoceratin-A (1)、-C (2) および潜在性結核菌に対する抗菌物質3-alkylamino demethyl(oxy)aaptamine (3) の合成研究を行い、H.26年度に以下の成果を得ている。 研究開始当初の計画に従い、1および2の合成研究を行った結果、両化合物の初の不斉全合成を達成するとともに、1、2の絶対立体配置を確定することに成功した。In vitro活性試験の結果、合成した1、2は再現性よく低酸素微少環境選択的に増殖抑制活性を示し、両化合物ともに、光学異性体が同等の生物活性を示すことを見出した。また、1、2を数百ミリグラム供給することにも成功し、in vivo試験を行った結果、両化合物ともに経口投与で抗腫瘍活性を示すことを見出した。さらに、2のアナログ化合物を種々合成し、構造活性相関の重要な知見を得ている。 3は天然から単離した際に極微量しか得られなかったため、その生物活性の確認が急務であった。私は3の合成研究において、研究当初は生合成を模倣した合成経路を検討していた。しかし、検討を重ねた結果、化合物の取り扱いや生成の過程で大きな問題が発生したため、合成計画を見直すこととした。類縁物質の合成を参考に、新たに合成計画を立てて検討を行った結果、3の初の全合成を達成することに成功し、3を数十ミリグラム供給できている。合成した3の結核菌に対する抗菌作用を評価した結果、再現性よく潜在性結核菌に対して抗菌活性を示すことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(+)-dictyoceratin-A (1)、-C (2)は構造が比較的単純な化合物である。また、類縁体の合成研究が行われており、その報告例を参考にした合成計画を立てたことが、スムーズに合成研究を進めることができた理由だと考えられる。さらに、研究に協力してもらった大学院生が積極的に研究に取り組んでくれたおかげで、純度の問題など、新規な発見にもつながるような詳細な実験データをそろえることができた。また、一般に行われているような合成研究と生物活性評価を共同研究で行う場合は、別々の研究室または大学間で行うため、数日から数週間の時間がかかる。一方で私たちは、活性評価やin vivo試験を同じ研究室に在室する連携研究者に依頼するため、実験の都合をつけることや、密な議論が重ねられるため、迅速に研究を進めることができている。 3-alkylamino demethyl(oxy)aaptamineの合成研究において、研究当初は生合成を模倣した合成経路を考案し、合成研究を行っていたが、収率や化合物の取り扱いの問題などがあった。そこで、早い段階で方針を転換し、新規合成経路を考案して研究を進めることにした。その結果、3の初の全合成を達成することにつながったと考えられる。 上記の研究方針に加え、所属する研究室または研究科において、研究を遂行する上で必要な機器などの設備が充実していることが、精度が高い研究の進行に役立っている。また上記のように、活性評価を同一研究室で行えることが、迅速な研究の推進に大きな役割を果たしていると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
(+)-Dictyoceratin-A,-Cはアナログ合成を通じて構造活性相関の情報を得ることができている。当初の合成計画では構造の簡略化や官能基変換による活性の増強を行う予定であったが、これまでの研究結果から、ランダム合成によるアナログ化合物の設計・合成では医薬リード化合物の創製は困難であることが示唆されている。このことから、まず1,2のプローブ分子を合成し、これを用いて標的分子を同定するケミカルバイオロジー研究を行うこととした。研究が進み、標的分子の3次元構造の解析を達成できれば、その構造情報から再度アナログ化合物を設計していく計画である。今後はまず、1,2の構造活性相関の情報をもとにプローブ分子を設計し、活性を保持したプローブ分子を見出すことを行う。その後、連携研究者とともにプローブ分子を用いた種々の方法を駆使して、標的分子の解明を進めていく予定である。 一方、3-alkylamino demethyl(oxy)aaptamineについては、すでに全合成経路は確立できたため、本合成経路を利用してアナログ化合物を合成し、活性を評価して構造活性相関の情報を蓄積していく。その後、活性の増強や構造の簡略化を志向したアナログ化合物を設計・合成を行い、短工程で合成できる大量供給可能な医薬リード化合物の創製を検討する。また、同時にin vivo試験や多剤耐性結核菌に対する活性評価を行い、本化合物の有用性を高めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
H.26 年度の研究は、全合成研究が当初の計画よりも順調に進行したため、当初の予定よりも大幅に少ない試薬の使用量で研究がすすめられた。また、年度後半では化合物の純度確認が重要な問題となり、機器分析を主に行っていたため、当初の予定よりも使用金額が少なくなる結果となった。H.27年度では合成研究に加え、生物活性評価やケミカルバイオロジー研究を主に行う予定である。そのため、H.26年度に比べ高額な試薬や機器が必要になると考えられるため、次年度使用額を計上している。特に、生物活性評価を行う細胞やアッセイのための試薬及び、in vivo試験を行うためにのマウスを購入するための資金が必要になると予想される。また、詳細な研究を行うために必要な抗体、遺伝子解析、siRNAなどの生物学的ツールが高額である。
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次年度使用額の使用計画 |
有機合成による天然物の供給のため、定期的に合成関連の試薬を購入して有機合成を行う予定である。アナログ合成に伴う生物活性評価は随時行う予定であり、その都度細胞や検出試薬が必要になる。In vivo試験は年に1、2度、50匹前後を購入して実施する予定である。また、年度後半から作用メカニズム解析を計画しており、その際に抗体、遺伝子等の生物学的なツールを購入する予定である。
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