研究課題/領域番号 |
26860068
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研究機関 | 東北薬科大学 |
研究代表者 |
村田 敏拓 東北薬科大学, 薬学部, 助教 (70458214)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | モンゴル国 / 国際情報交換 / 伝統医学 / 薬用植物 / 薬効成分 / 化学構造解析 / 昆虫 / 生物活性試験 |
研究実績の概要 |
モンゴル国薬用植物の含有成分解析と生物活性の評価により薬効の科学的根拠を明らかにし、また有効な活用法を見出す。特に活性評価系に昆虫の生体を用いた試験を確立、導入することで活性成分の生体内作用メカニズムについて昆虫をモデルに考察を得ることを目的とする。 初年度に継代飼育と安定した試験への供給体制を確立したエンドウヒゲナガアブラムシを用いて、継続的に活性試験方法の検討を行った。これまでに、1. 植物成分の自然免疫への影響を評価することを目的として、フェノール酸化酵素前駆体カスケードによるメラニン化反応に至るまでの現象を利用した試験。2. 昆虫の有する酵素に対する植物成分の作用を評価することを目的とした試験(アセチルコリンエステラーゼを中心に)。について方法の検討と最適化を重点的に試みた。1.に関連して、昨年度に問題点で掲げた「免疫反応における各段階における反応や仕組みについて理解し実際の作用点を明らかにすべき。」を解決するために、上記カスケード各段階で作用する阻害物質を順に検討した。また、自然免疫系を活性化あるいは不活性化する要素(植物成分を含む化学物質や人為的処理)について実験を重ねた結果、複数の要素が明らかになり現在整理を進めている。 並行してモンゴル国薬用植物の成分解析を行い、新たにAtraphaxis frutescens よりピロガロール構造を特徴とするフラボノイドをはじめとする33化合物(うち新規化合物7種類)、Brachanthemum gobicum よりアシル化リグナンを中心とする47化合物(うち新規11種類)などの成分を単離し、化学構造を決定した。更に、有力な抗酸化活性、抗原虫活性を認めたSaxifraga spinulosaの解析に新たに着手している。 以上の成果について、学会発表を随時行ってきたほか、公表に向けて論文を現在執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昆虫試験系については自然免疫系や昆虫に特徴的な酵素活性を対象とした試験法の検討と並行して、これまでにモンゴル薬用植物から得た画分や成分を実際に上記試験系にて評価することを順次進めている。その結果、自然免疫に対していずれかの段階で作用する多数の画分を見出したほか、いくつかの活性化合物を明らかにした。 モンゴル薬用植物の成分解析についても、一部継続中、検討中であるものの、実績の概要で述べた3種に加え、ハーブとしてモンゴル国内で重用されるThymus gobicus、ユニークな強壮に関する伝承を持つPullsatilla flavescens、日本のシャクヤクやボタン(生薬として重要)に近縁のモンゴル産Paeonia anomala、P. lactiflora、コリンエステラーゼ阻害活性や抗グラム陽性菌活性の活性本体を明らかにしたCaryopteris mongolicaなどについて主要成分を明らかにしている。 現在、昆虫試験系について試験法の最適化と作用点の解明を試みており、特に1.自然免疫系。2. アセチルコリンエステラーゼに関連した活性。それぞれについて影響を示すモンゴル植物由来化合物、エキスを明らかにしたいと考えている。 一方で、自然免疫に関与する酵素や昆虫の生体成分について精製を試みているが、これまでに新規性の高い結果は得られていないことから、今後精製方法の見直しも含めて検討課題である。さらに当初の研究計画で挙げた、抗酸化物質の生体内への影響の評価についても、これまでに得た知見を足掛かりに、検討を開始したい。表皮吸収法や生体内へのマイクロインジェクションは技術的には可能であり、上記方法で明らかになってきた自然免疫作用物質のいくつかは、抗酸化活性とも関連が深いことから総合的な考察ができることを目指している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに挙がった問題点と解決方法を整理する。 1.昆虫自然免疫系への作用を評価する方法として体液メラニン化を応用する試験系や各酵素を対象とした試験系を最適化する必要性がある。これらについては、カイコやショウジョウバエなど同様のメカニズムがある程度明らかにされている知見を参考にして、外敵認識段階や免疫カスケード各段階で作用する標準物質を実際に試験するなどして比較検討することで改良を試みる。 2.特定の化合物の投与や酸素欠乏により体色が著しく変化するなど供試昆虫の行動や虫体変化の観察から知見を得た。そこで、これらの現象に関与する酵素や昆虫の生体成分について精製を試みる。これまでエンドウヒゲナガアブラムシ虫体抽出物から網羅的に低分子化合物と主要酵素の解析、単離を行っている。今年度さらに虫体の量を増やして、これまでの結果を参考に、効率的に関連するタンパク質、低分子生体内物質を探索・同定し、最終的に原因や生体機構について考察を得ることを目標とする。 3.モンゴル薬用植物について、確実に各植物の薬効における科学的根拠につながるデータを得るようにする。このために、未決定のモンゴル薬用植物成分の立体配置も含めた化学構造の決定を迅速に行う。生物活性試験についても昆虫試験系に加えて従来からの酵素、細胞、動物を使用した評価系でも進め、生物活性を示す化合物を同定する。 4.本課題を軸としたモンゴル国との国際共同研究体制の強化。これまでにJICA工学系高等教育事業への参画、モンゴル家畜研究所および帯広畜産大学との原虫-家畜への植物成分作用での共同研究、モンゴル食品科学研究所との成分分析に関する共同研究などを立ち上げた。引き続き本課題後も包括した継続発展的な関係を構築していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果の論文発表に際して、英文校正を行う費用として計画した分が年度をまたぐことになった為。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度に生じた次年度使用額分に関しては、理由で述べたように現在執筆中である発表用論文の英文校正費に充てる。 翌年度分として請求した助成金については、当初の申請書の計画欄に沿って、実験に必要な物品の費用並びに学会発表・論文発表に必要な費用として使用する予定である。
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