本研究は、複数の免疫細胞が相互にクロストークしている腸管免疫が関連する疾患においては、単一成分を用いている西洋薬よりも、多成分で構成されている生薬エキスや漢方方剤のほうが、分子標的や細胞に対して幅広いスペクトルで奏功することが考えられる。 漢方医学の概念には、「気・血・水」という3つの要素が存在し、それぞれのバランスによって健康状態が維持されている。その中で、「気」の一部は胃腸管からの栄養素の吸収であり、「気」に作用する漢方方剤を「気剤」といいその中には、胃腸管に作用するものも少なくない。また、多くの薬剤の作用は、腸管からの吸収過程を考慮に入れなければならないが、腸管が作用の場であることから、吸収課程を考慮する必要がないため、直接細胞に添加した結果と、in vivoの結果が十分に相関するものと考えられる。 しかしながら、複数の細胞と多成分の作用を解析することは、非常に煩雑になるため、まず本研究では、単一細胞に対する生薬・漢方方剤の影響について検討し、その作用をデータベース化することを第一目標とした。また、ユニークな活性を示すエキスについては、その活性本体の同定を試みることも視野に入れている。最終的には共培養系を用いた複数細胞を用いた検討を実施することを目的として遂行している。単一細胞に対する作用をデータベース化することで、漢方方剤による腸管免疫への作用を予測することも可能となるばかりか、その生薬から活性成分を単離同定することで、標的の定まった治療も可能となると考えられる。 平成29年度は、大学内で使用できる研究設備で、動物からの初代培養実施を模索したが、共同設備での利用は不可能であったため、生薬エキスライブラリーの更なる充実を図るにとどまった。
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