研究課題
エストロゲン受容体(Estrogen Receptor,ER)は全乳がんのおよそ70%で過剰発現しているタンパク質であり,ER陽性乳がん治療薬としてERアンタゴニストが有効である.代表的なERアンタゴニストであるタモキシフェンは,非ステロイド型の構造であり,経口投与が可能である.しかしながら,組織依存的なアゴニスト活性を示すことから,投薬には副作用のリスクを伴う.本研究では,タモキシフェンの副作用を減弱させ,かつより強力な乳がん治療薬にするための手段として,ERをリガンド依存的に分解することが有効であると考え,ER分解誘導活性を有するタモキシフェン誘導体の開発を試みることとした.タモキシフェンの活性代謝物である4-OHTとERリガンド結合部位(ER LBD)のX線結晶構造解析の結果に基づくと,4-OHTのアミン部分はリガンド結合ポケットから外側に向かって伸びており,ER LBDの12番目のヘリックス(H12)がその上部に覆いかぶさるような構造をとっている.このアミノ基により嵩高い構造を導入することで,リガンドとしての結合能を保ちつつ,H12の相互作用を妨げ,その結果,ERの構造が不安定化し,分解が誘導されるのではないかと考えた.そこで4-OHTのアミノ基に異なる長さのアルキル基を導入した化合物をデザイン合成したところ,ER分解誘導作用を有する化合物を見出しすことに成功した.また,蛍光偏光法を使った結合能の評価および,定量的RT-PCRによるアンタゴニスト活性の評価を行ったところ,化合物のER結合能は4-OHTとほぼ同等でり,アンタゴニスト活性を有していることがわかった.また,タモキシフェンとフルベストラントのハイブリッド化合物を合成し,ER分解誘導作用を有する化合物の開発に成功した.
2: おおむね順調に進展している
タモキシフェンのアミノ基に,様々な構造を有する化合物を合成した.それらの中から,長鎖アルキル基を有する化合物にER分解誘導活性を有する化合物を見出すことに成功した.また,詳細な構造活性相関研究を展開し,ER分解誘導活性に必要な構造を特定することができた.合成に関しては,当初の計画を前倒しして進めることが出来た.各種アッセイに関しても,概ね順調に遂行している.アンタゴニスト活性の評価については次年度も引き続き行う.
前年度までの構造活性相関研究を踏まえて,より強いER分解誘導活性を有する化合物の開発を行う.具体的には,アルキル基の末端に性質の異なる官能基(例えば親水性の官能基として水酸基やカルボキシル基,アミノ基などを,疎水性の官能基としてハロゲンや,よりbulkyな構造など)を導入し,ER分解誘導活性にどのような影響をあたえるのかを検討する.さらに,本研究で見出した化合物デザインが,他のリガンドに対しても応用可能かどうかを検討するために,ラロキシフェンなど,他のERリガンドを利用した化合物の合成を行う.また,合成した化合物のアンタゴニスト活性の評価についても検討する.また,他のタンパク質をターゲットとした分解誘導剤の開発も試みる.具体的には,アンドロゲン受容体分解誘導剤への展開も試みる.
真空ポンプの修理および,一部の消耗品の納期が翌年度に伸びたため,次年度使用額が生じた.
引き続き,消耗品の購入に充てる.
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