研究課題/領域番号 |
26860087
|
研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
丹治 貴博 岩手医科大学, 薬学部, 助教 (60453320)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 遺伝学 / 栄養シグナル / オルガネラ / 線虫 / 飢餓 / シグナル伝達 |
研究実績の概要 |
線虫(Caenorhabditis elegans)の腸細胞に豊富に存在するオルガネラであるHEBE顆粒は飢餓条件下で急速に分解するが、この分解はリソソームやオートファジーに依存しない新規のメカニズムによるものと考えられる。このオルガネラ分解の分子基盤を明らかにするために、分解に必要な遺伝因子の候補を得る目的で、RNAiライブラリーを用いた網羅的なスクリーニングを開始した。 線虫では、遺伝子配列に対応する二本鎖RNAを発現する大腸菌を餌として与えるだけで、効率的に当該遺伝子産物の産生を抑制する(feeding RNAi)ことができる。咽頭筋特異的ニコチン性アセチルコリン受容体(EAT-2)の機能に重要なEAT-18の変異体を用いることで、feeding RNAi を効かせながら、同時にカロリー制限によりHEBE顆粒が形成・維持されなくなる条件を確立し、約11,000クローンを含むRNAiライブラリー(Open Biosystems社)のうち、デジタル顕微鏡(キーエンス社)を用いて本年度末までに7,000以上のクローンを解析した。そのうち、50以上のクローンが陽性であった。並行して、一次スクリーニングで陽性のクローンに対して、微分干渉顕微鏡を用いた二次スクリーニングを進めており、これまでに16遺伝子が陽性クローンとして得られている。陽性クローンの中には、RNAiにより不妊の表現型を示すものが多く、HEBE顆粒の分解と生殖腺との関連が窺われる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究開始時に、HEBE顆粒のオルガネラ分解に関わる遺伝子のRNAiライブラリーを用いたスクリーニングを、本年度と次年度の2年間で完了するという計画を立てた。RNAiライブラリーのうち6割以上のクローンの一次スクリーニングを本年度中に終え、更に二次スクリーニングを並行して進め、複数の陽性クローンを得ている。このペースを維持すれば次年度中にはスクリーニングを完了できることになることから、研究計画通り順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究開始当初の計画通り、進行中のRNAiスクリーニングを進め、一次スクリーニング及び二次スクリーニングを完了する。更にHEBE顆粒マーカー(GFP融合型HAF-4)発現線虫を用いた顕微鏡観察により、HEBE顆粒が維持されているか確認する。RNAiスクリーニングで得られた陽性遺伝子について、飢餓応答時のHEBE顆粒の分解に関与するか調べるために、HAF-4::GFP発現線虫の陽性遺伝子変異体との掛け合わせ個体もしくはRNAi個体を用いて飢餓応答を解析する。 次に、陽性遺伝子の発現細胞及び細胞内局在を解析する。自己プロモーターを含む当該遺伝子に蛍光タンパク質(GFPやmCherryなど)の遺伝子を連結した発現ベクターを遺伝子導入することで、蛍光タンパク質融合型のタンパク質を発現するトランスジェニック線虫を樹立し、その局在を共焦点顕微鏡により観察する。腸内顆粒に局在する因子に関しては、HAF-4::GFPもしくはHAF-9::mCherryとの共局在解析により、HEBE顆粒に局在するか調べる。更に、陽性遺伝子を過剰発現した時、もしくは恒常的に活性化する機能獲得(gain-of-function)型変異タンパク質を発現した時に、通常飼育条件下でHEBE顆粒の形成不全もしくは恒常的な分解が起きているか解析する。 HEBE顆粒の分解に必要な因子群について、バイオインフォマティクスから推定される機能と局在解析の結果からその相互作用を予測し遺伝学的に検証を行う。具体的には、1)二重変異体でのHEBE顆粒の飢餓応答を単一変異体と比較する、2)一方の欠損変異体と他方の過剰発現線虫・機能獲得型変異タンパク質発現線虫を掛け合わせた時にどちらの表現型を示すか調べることにより、同定した因子群のエピスタシス解析を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究の推進に当たっては多くの時間・人手を要することから実験補助員の雇用が不可欠であるが、地方都市のため必要な実験技術を有する者は少なく、限定された人を雇用せざるを得ない。当初、研究計画期間の4年間に渡って週2~3日雇用する予定であったが、配分額や労働者派遣法による雇用期間の上限、雇用予定者の事情等を総合的に判断し、次年度以降に集中して週の勤務時間を増やして雇用した方が有効であると考え、本年度の本研究課題での雇用を見送った。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度以降も引き続き、スクリーニングに必要な消耗品や試薬等を購入する。特に、スクリーニングが完了に向かうと遺伝子工学実験が増えることから、遺伝子工学試薬への支出が増加すると予想される。また、成果発表のために国内外の学会への参加費・旅費を申請する。更に、本年度未使用額も合わせて、実験補助員に対する謝金として有意義に使用したい。
|