研究実績の概要 |
前年度は白金系抗がん剤の一つであるオキサリプラチンによる味覚機能への影響について検討を行った。それ以外の抗がん剤についても味覚異常は報告されている。多発性骨髄腫の治療薬であるボルテゾミブは味覚異常を生じることが報告されているが、その味覚感受性に与える影響や発症機序などの詳細は不明である。そこで、ボルテゾミブ投与マウスの味覚感受性への影響について行動学的に評価し、さらにマウス有郭乳頭における味蕾の形態及び味受容体のmRNA発現プロファイルについて検討した。C57BL/6N雄性マウスにボルテゾミブ (1 mg/kg, twice/week, 4 weeks, s.c.) を投与し、味覚感受性の変化を五基本味の味溶液を用いたbrief-access試験によりマウスが舐めた回数 (lick数) にて評価した。また味蕾の形態はHE染色により、味受容体のmRNAレベルでの発現量はreal-time PCR法により解析した。ボルテゾミブ投与マウスにおいて、投与後9日目以降に酸味及びうま味溶液に対するlick数は有意に減少した。投与後26日目に酸味溶液に対するIC50値はcontrol群に比べて有意に減少した。一方、その他の味溶液に対するlick数は変化しなかった。ボルテゾミブ投与マウスの有郭乳頭において、味蕾の形態及び酸味受容体のmRNAレベルでの発現量の変化はなかった。ボルテゾミブ投与マウスにおいて酸味感受性が増大し、それは味蕾の形態や酸味受容体の発現の変化ではなく、味覚情報伝達分子などの変動に起因するものと考えられる。
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