これまで申請者らは、慢性腎臓病患者および慢性腎不全モデルラット、さらに維持透析患者の血液をキャピラリー電気泳動質量分析(CE-MS)にて網羅的に解析し、腎機能の低下や透析による生体内の代謝性物質の変動プロファイルを明らかにしている。またアデニン誘発性腎不全モデルマウスに対し下剤の一種であるルビプロストンを投与することにより、腸内細菌叢がいわゆる善玉菌優位に変化し、血中の尿毒素の減少および腎機能の改善が認められることを見出し報告した。 また我々は化合物ライブラリのスクリーニングを行い、新規合成インドール化合物(MA-5)が、ミトコンドリアにおける ATP産生を促進し、ミトコンドリア病患者から採取した線維芽細胞の生存率を改善することを見出し報告した。さらにMA-5はマウスへの投与にて虚血再灌流モデルやシスプラチン腎症での腎障害を軽減することを明らかにした。さらにミトコンドリア病モデルマウスであるMitomiceへのMA-5投与にて、心筋障害や腎障害の顕著な改善傾向を認めた。これらの結果より、新規インドール化合物MA-5はミトコンドリア病や酸化ストレスによる腎障害への新たな治療戦略となる可能性が高いと考えられた。特にミトコンドリア病は現在においても有効な治療法が確立されていないのが現状であり、MA-5はミトコンドリア病に対する画期的な治療薬となる可能性をもっていると考えられた。これらの知見を報告するとともに、現在ミトコンドリア病治療薬への応用を目的に、さらなる解析を進めている。 また申請者は2015年10月より米国ブリガム&ウィメンズ病院にポスドクとして留学し、ストレスに対するtRNAの制御とその生理学的機能などにつき研究を進めている。研究対象の分野の最近の知見を総説として報告した。
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