本研究は、核内受容体PXRの新規な生理機能・免疫応答調節の分子機序を明らかにすることを目的とする。 前年度までに、PXR欠損マウスを用いた解析により、コンカナバリンA(Con A)自己免疫性肝炎モデルにおいて、齧歯類PXRの典型的活性化物質pregnenolone 16α-carbonitrileの前投与は、①予想に反してPXR機能を介せずに肝特異的なケモカインの発現誘導と好中球の肝浸潤を抑制し、肝障害を軽減する、②一方、PXR活性化を介して一部炎症関連因子の発現上昇を抑制する、ことを見出した。そこで、新たにCon A以外の炎症誘発物質とヒト由来培養細胞系(単球系、大腸癌由来細胞株)を軸とする実験モデルを用い、各種ヒトPXR活性化物質の処理はTNFもしくはLPS刺激に応答した炎症関連遺伝子の発現を抑制することを見出した。しかし、本系では、①PXR発現量が乏しく、②各々活性化物質はPXRを介して異なる標的に作用する、或いは、③一部の活性化物質はPXR非依存的に作用する、可能性が示唆された。本年度は、新たに作製したヒトPXRを安定発現するヒト大腸癌由来LS180細胞株を用いた遺伝子発現解析及び各種細胞株を用いた複数の炎症関連遺伝子プロモーター領域のレポーター解析を実施した。しかし、何れの場合もヒトPXR典型的活性化物質rifampicin(RIF)によるPXR活性化に依存した炎症関連遺伝子の発現抑制及びレポーター活性の変動は認められなかった。さらに、ヒト初代培養肝細胞に近い特徴を有するHepaRG細胞を用いて同様の解析を実施したが、RIFによる抑制作用は認められなかった。 本研究では、マウス及び培養細胞系を用いてPXRによる免疫応答調節の分子機序の解析を実施した。今後、本研究により得られた知見及び解析系を基に、免疫応答調節を含めPXRの機能解析の進展が期待される。
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