薬物の血中濃度と薬効は密接に関連しているが、β受容体遮断薬や抗不整脈薬といった臨床上汎用されているカチオン性薬物の体内動態には大きな個体差が存在する。これまで、カチオン性薬物の体内動態の個体差には、患者の腎機能および肝機能が影響を及ぼすことが報告されてきたが、肝機能および腎機能だけでは個体差のすべてを説明することができない。一方近年、カチオン性薬物の消化管吸収にH+との対向輸送系が関与すると報告されているが、その実体は未だ明らかではない。本研究では、薬物を服用中の患者を対象とした臨床試験を実施し、カチオン性薬物の消化管吸収変動性を評価するとともに、その消化管吸収に関与するH+/カチオン性薬物対向輸送系の同定を試みる。 本研究ではまず、以前に当研究室で実施した日本人患者を対象としたメトプロロールの臨床薬物動態試験の再解析を、非線形混合効果モデル法を用いて行ったところ、経口クリアランスと見かけの分布容積との間に正の相関が認められ、バイオアベイラビリティの個体差がメトプロロールの体内動態変動の一因であると考えられた。さらに、培養ヒト腸上皮LS180細胞を用いて、メトプロロールの膜輸送機構を検討したところ、メトプロロールの取り込みには未同定のH+/カチオン性薬物対向輸送系が関与していることを明らかにし、消化管吸収過程がバイオアベイラビリティの個体差に関与している可能性があると考えられた。 本研究ではさらに、LS180細胞を用いて未同定のH+/カチオン性薬物対向輸送系の基質であるプロカインアミドの取り込み特性を、H+との対向輸送系であるcholine transporter-like protein 1 (CLT1) の基質であるコリンと比較した。LS180細胞におけるプロカインアミドとコリンの輸送特性は異なり、CTL1は未同定のH+/カチオン性薬物対向輸送系とは異なると考えられた。
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