研究課題
がん化学療法誘発性の悪心・嘔吐は、抗がん薬投与により発現する非血液毒性であり、患者のQOLを大きく損なう原因の一つである。近年、新規制吐薬の臨床導入に伴い化学療法施行患者の嘔吐完全抑制割合は向上しているが、その割合は60-70%であり未だ満足できるものではない。したがって、制吐療法に抵抗となる患者の背景因子を把握することは重要である。本研究では、制吐薬の中枢への取り込みや受容体への結合に影響し、制吐効果の発現に関連することが想定される薬物動態・感受性関連遺伝子多型と制吐効果との関連を網羅的に検討する。さらに、悪心・嘔吐発現に影響する患者背景因子を解析し、遺伝子多型情報活用した制吐薬のオーダーメイド薬物療法に応用するためのエビデンスを構築することを目的とする。初年度は、制吐療法の多施設共同大規模臨床試験に参加した日本国内の6施設の患者156名から本研究の同意を取得し、遺伝子多型解析に用いる血液試料の提供を受けた。すべての同意取得者において薬物動態に影響することが示唆されているABCB1(1236C>T、2677G>T/A、3435C>T)、ABCG2(34G>A、421C>A)の遺伝子多型解析を行い、嘔吐完全抑制の有無との関連について、年齢、性別、シスプラチン投与量などの悪心・嘔吐発現に影響することが既に報告されている因子を含め多変量解析を行って検討した。多変量解析の結果、制吐薬としてグラニセトロンが投与された群において、シスプラチン投与量、ABCB1 3435C>T、ABCB1 3435C>Tと2677G>T/Aの組み合わせが嘔吐完全抑制の有無と関連する因子であることが示された。次年度は、薬物感受性関連遺伝子多型(NK受容体、5HT3受容体)の解析系を確立し、嘔吐完全抑制との関連を評価することで制吐効果の予測マーカーとしての有用性を明らかにする。
2: おおむね順調に進展している
集積可能の症例集積は既に完了しており、解析することを計画している遺伝子多型の解析系についてもほぼ確立している。
前年度に引続き同様な研究体制で研究を継続する。5HT3受容体遺伝子多型(5-HT3B 100_102 deletion、5-HT3C 489C>A、 5HT3C 1214G>C)の解析系を確立し次第、患者検体を用いて解析し、遺伝子多型毎に患者群を分類し、嘔吐完全抑制割合と遺伝子多型との関連を評価を行う。また、悪心・嘔吐に関与する他の因子についてもデータ収集を行い総合的に評価する。
症例集積後のデータ解析(中間解析)の時期と学会発表の時期が合わなかったっため。解析費の高いダイレクトシーケンスを次年度に行うこととしたため。
得られた成果についてEuropean Cancer Congress 2015をはじめ国内外の学会発表での旅費、ダイレクトシーケンスを行う目的で使用予定。
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