研究課題/領域番号 |
26860112
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
川野 雅章 埼玉医科大学, 医学部, 助教 (30447528)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ウイルス粒子 / ウイルス様粒子 / 免疫学 / アジュバント / ワクチン / ドラッグデリバリー / 抗原 / エピトープ |
研究実績の概要 |
我々の解析により、ウイルス様粒子 (VLP: virus-like particle) が良好なエピトープ運搬体として機能し、免疫活性化剤を加えなくてもVLPの免疫原性により1回の免疫で目的のエピトープに対して強力に免疫を誘導することが明らかになった。実際、インフルエンザウイルスのmatrix protein 1 (M1) のCTLエピトープ (FMP: influenza virus matrix protein1peptide (FMP) 58-66, GILGFVFTL) をVLPのDEループ (FMP-DE-VLP) およびHIループ (FMP-HI-VLP) に遺伝子工学的に挿入してFMP 58-66 エピトープの運搬体を構築し、1回の免疫によって、様々な免疫経路でincomplete freund’s adjuvant (IFA) の50倍以上強力にFMP 58-66 エピトープに対する細胞傷害性T細胞 (CTL: cytotoxic T lymphocyte) を誘導した。驚くべきことにFMP-DE-VLP、および、FMP-HI-VLPは、点鼻投与でもHLA-A2トランスジェニックマウスの脾臓に、FMP 58-66 エピトープに対するCTLを誘導した。 本研究年度では、VLPから成る運搬体が目的のエピトープに対する免疫活性化を強力に誘導する作用機序の解明のための実験を行った。実際、特定の免疫活性化マーカーの強力な発現誘導を解析し、その免疫活性化マーカーが発現誘導される免疫担当細胞を解析した。さらに、VLPと相互作用する免疫担当細胞内因子、VLP刺激によって特異的に分泌誘導される因子、および、細胞表面に発現誘導されるcluster of differentiation (CD) マーカーも解析した。さらに、VLP刺激による免疫活性化経路の解析も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題では、VLP刺激で発現が上昇する免疫活性化マーカーを解析すると共に、マーカー発現が上昇しているマウス免疫細胞集団を解析し、その免疫活性化メカニズムを詳細に解析することを目的とした。これにより、VLP刺激による免疫活性化機序が明らかになると期待された。さらに、VLPと相互作用する免疫担当細胞表面因子を解析し、その表面因子と免疫活性化マーカーの発現上昇との関連を解析することも目的とした。加えて、免疫活性化マーカーの発現を誘導する細胞内シグナル経路を解析し、そのシグナル経路を介して発現誘導される免疫担当細胞内の因子の網羅的解析を行うことも目的とした。実際、本研究計画年度において、VLP刺激により強力に発現上昇する免疫活性化マーカーを解析し、その免疫活性化マーカーが発現上昇している免疫担当細胞を解析した。また、VLPと相互作用する免疫担当細胞内因子を解析し、その因子と免疫活性化マーカーの発現上昇との関連についても解析した。さらに、VLP刺激によって特異的に分泌誘導される因子、および、CDマーカーも解析した。加えて、VLP刺激による免疫活性化経路の解析も行った。平成27年度以降に予定していた、様々なVLP刺激による免疫細胞集団の応答の解析も前倒して行い、結果を取得することにも成功した。本研究課題としては、さらに、VLP刺激による免疫活性化経路の全解明、VLP刺激による、抗原提示細胞 (APC: antigen presenting cell) の強力な活性化機序の解明、VLPを用いた単純ヘルペスウイルス (HSV) に対するワクチン開発が残っているが、これらは、平成27年度の研究計画年度で遂行可能であると考えられることから、現在までの達成度は、当初の計画以上に進展している、と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、本研究課題の予定通り、VLP刺激により免疫活性化されるAPCがCTL、ヘルパーT細胞、B細胞を効率的に成熟化させる分子機構を明らかにする。これにより、VLP刺激による免疫活性化およびAPCを介した免疫担当細胞成熟化の一連の分子機構が明らかになると期待される。そのためにまず、VLP刺激による免疫活性化経路を明確かつ簡便に検出することで完全に解明することを目的とする。この目的達成のため、カルシウムアッセイ系を組み、VLP刺激による免疫担当細胞質内のカルシウム濃度の上昇を検出する系を構築する。その系において、標的となる細胞内シグナル伝達経路に関与している因子をCRISPR/Cas9システムで破壊し、カルシウム濃度の上昇が阻害されることを指標にして、VLP刺激による免疫活性化経路の全解明を行う。さらに、種々のAPCを単離し、各々、VLPで刺激した後、naive CD4+T細胞、naive CD8+T細胞、naive B細胞、を混合し、抗原提示効率の比較するために、免疫担当細胞増殖試験、および、抗原を認識するCTLを加えて細胞傷害活性の定量比較試験を行う。また、これらのnaive細胞の活性化をCD69マーカーの上昇を指標にして解析することで、VLP刺激によるAPCの活性化とそれに続く免疫担当細胞の成熟化の作用機序を解明する予定である。これらの結果を踏まえて、VLPのワクチン製剤としての効能を立証するため、我々の同定したHSVのCTLエピトープをVLPに挿入し、HSVに対するワクチン製剤を構築して、その効能を解析することでワクチン製剤による免疫がHSV感染に対して効能があることを示す予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度額が生じた理由は、VLP刺激によって発現誘導される免疫担当細胞内因子の探索、および、VLPと相互作用する細胞内因子の探索が支障無く進んだため、費用削減が実現したことによるものである。具体的には、VLPで刺激した免疫担当細胞から取得したmRNA sequenceの結果に基づき、刺激によって特異的に発現上昇していると見られるタンパク質の発現の上昇を確認するためのフローサイトメトリー解析のための蛍光標識特異抗体の購入費用が削減され、また、定量PCR解析を行うための解析試薬購入費用が削減された。さらに、プロテインアレイを用いて、VLPと相互作用する細胞内因子を探索するための、VLPの大量調製、および、VLPのビオチンラベルの条件検討が支障無く進んだため、VLPの大量調製用の培養用試料、および、ビオチンラベルに必要なラベル試薬などの購入費用が削減されたために、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
生じた次年度使用額は、VLP刺激により免疫担当細胞内で発現誘導されるsmall RNAなどを詳細に解析するために使用する。そのために、種々のRNA検出用SmartFlareプローブを購入し、細胞内RNA発現解析を行う。また、VLP刺激で発現誘導する免疫担当細胞内因子の免疫応答に関する機能を解析するために、これらの遺伝子をCRISPR/Cas9を用いて破壊して、VLP刺激による免疫応答を詳細に分析するための費用に用いる計画である。平成27年度の使用額は、予定通り、VLP刺激により免疫活性化されたAPCがCTL、ヘルパーT細胞、B細胞を効率的に成熟化させる分子機構を明らかにするための解析費用に使用する。また、VLPのワクチン製剤としての効能を立証するため、HSVのCTLエピトープをVLPに挿入し、HSVに対するワクチン製剤を構築して、その効能を解析するための費用に使用する。
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