敗血症は感染を基盤とする全身性炎症反応症候群であり、ショックや多臓器不全に移行する重篤な病態です。近年、敗血症における多臓器不全の原因物質の1つとして、体内に存在するヒストンが注目されており、このヒストンを標的とした新たな治療薬の開発が期待されております。本研究では、褐藻類に含まれるアルギン酸のヒストンへの作用を明らかにし、敗血症性多臓器不全の治療におけるアルギン酸の有効性を示すことを目指しています。本年度は、アルギン酸のヒストン選択性のメカニズムを明らかにする目的で、ペクチン、キトサンなど他の高分子のヒストン吸着能について分析を行いました。その結果、アルギン酸によるヒストンの吸着は、アルギン酸のカルボキシ基とヒストンのアミノ基との静電相互作用による反応であることが示唆されました。次に、血液浄化療法への応用を目指し、アルギン酸ゲルビーズのヒストン吸着能を解析したところ、アルギン酸はカルシウムイオンでゲル化してもヒストン吸着能を維持していることが明らかとなりました。さらに、アルブミン、γ-グロブリン及びα1-酸性糖タンパク質等の血漿中に存在する代表的なタンパク質とアルギン酸の反応性を調べ、アルギン酸ゲルビーズが他の血漿中タンパク質に比べヒストンを強く吸着することを明らかにしました。これらの結果から、アルギン酸が敗血症多臓器不全の治療において、製剤素材の有力な候補となりうる可能性が示唆されました。
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