白金製剤は、DNAに損傷を加えることにより、抗がん効果を発揮すると考えられている。そのため、腫瘍の遺伝子修復能は、白金製剤の感受性に影響を与える因子であると推察される。過去に我々は、in vitroの検討で、非小細胞肺癌におけるDNA二重鎖切断修復にかかわるRad51蛋白発現、ヌクレオチド除去修復にかかわるERCC1蛋白発現と、白金製剤の感受性に相関を認めることを報告した。一方、治療を行われた患者で有効な効果予測因子となり得るかは現時点では不明である。 今回、白金製剤を用いた術後補助化学療法を施行した非小細胞肺癌完全切除症例76例を対象とし、Rad51蛋白発現、ERCC1蛋白発現と、白金製剤の感受性の関連性について検討した。パラフィン包埋された切除標本を用い、腫瘍部におけるERCC1、Rad51蛋白発現を免疫抗体染色法にて評価を行った。ERCC1陽性症例、Rad 51陽性症例はそれぞれ43例、45例であった。 今回対象とした76例の臨床病理学的因子、予後について追跡を行った。全症例の平均年齢は64歳、男性/女性:47/29例、腺癌/扁平上皮癌/その他:54/17/5例であった。病理病期IB期/II期/III期:14/30/32例であった。全症例の5年無再発生存率48.4%、5年全生存率76.4%であった。 Rad51蛋白発現、ERCC1蛋白発現と予後の検討を行った。ERCC1陽性症例は、陰性症例と比較し、有意に無再発生存が良好であった(p=0.02)。Rad51蛋白発現と無再発生存に有意な関連は認めなかった。また、Rad51蛋白発現、ERCC1蛋白発現と全生存に有意な関連は認めなかった。 過去に非小細胞肺癌の腫瘍部におけるERCC1、Rad51蛋白の発現が低い症例では、白金製剤の感受性が高いとの報告がある。白金製剤の感受性が高ければ、白金製材による術後補助化学療法により予後の改善につながるのではないかと仮説を立てていたが、今回の結果からは、全生存の改善につながるような結果は得られなかった。
|