膜貫通型プロテアーゼDINEのヒトホモログECEL1の変異は先天性関節拘縮症を引き起こすことが分かっている。変異の機能的意義を明らかにするため、初年度に、ゲノム編集技術CRISPR/Cas9を用いて、患者で同定されたミスセンス変異をマウスへと組み込んだ。前年度には、作製した変異マウスの表現型解析を行い、DINE C760Rマウスの運動神経で軸索分岐の異常を見出した。また、別の変異マウスG607Sでも同じ異常が観察された。胎生期C760Rマウスの脊髄においてDINEの免疫染色を行ったところ、運動神経細胞の細胞体では発現が確認できたものの、神経突起の陽性反応は消失していた。Western blottingを行うと、グリコシダーゼEndo-H耐性のバンドがC760Rでは検出できず、翻訳後修飾の異常が生じていた。G607Sマウスで免疫染色を行うと、DINE陽性反応の著しい減少が認められた。real time PCRでも同様の発現低下が確認されたことから、G607Sでの発現低下がmRNAレベルで生じていることが明らかとなった。ECEL1変異を有する患者の一部に外眼筋の運動異常がみられる。そこで、変異マウスの外転神経の発生過程をwhole mount免疫染色により詳細に調べたところ、E12.5の時期にC760Rでは、軸索伸展が途中で止まる個体、間違った方向に伸びた個体が合計すると半数程度で認められた。このような軸索伸展の異常はG607Sマウスでも再現された。外転神経の発達異常は、ヒトホモログ変異を有する患者の表現型が神経因性に生じている可能性を示唆するものであった。外転神経の異常は、横隔膜、四肢の運動神経でみられた異常とは、時期、表現型、浸透率などいくつかの点で異なっていた。運動神経のタイプによってなぜこのような差が生じるのか、は今後の課題である。
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