研究課題/領域番号 |
26860148
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
鈴木 邦道 慶應義塾大学, 医学部, 特別研究員(PD) (10713703)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 補体 / シナプス除去 / AMPA受容体 / C1q |
研究実績の概要 |
<補体分子群によるシナプス除去>C1qKOマウス、C3KOマウス(以下、補体KOマウス)を用いて生化学および免疫化学的手法により内因性のC1q、C3の局在を検出する方法を確立すると同時に、C1q、C3以外の自然免疫古典経路の制御分子や補体受容体などをクローニングし過剰発現実験系を行う準備を整えた。C1qの脳内における分布を解析したところ、海馬CA2に特徴的な発現を示していたが、CA2に入力する興奮性・抑制性・コリン作動性プレシナプスの数は補体KOマウスで変化は見られなかった。小脳、バレル皮質において生じるについてシナプス除去においても、異常は見られなかった。一方、網膜神経節細胞から外側膝状体へのシナプスについては補体KOマウスでシナプス除去がわずかに低下していた。In vitroでのシナプス除去の分子メカニズム探索のために、グリア細胞による貪食アッセイを評価する実験系を作製した。補体KOマウス由来のミクログリアの貪食能を野生型と比較して、ビーズおよびシナプトソームの貪食能が低下している可能性が示唆された。さらにC1qファミリーの補体分子群をコートしたビーズの貪食能を評価したところ、初代培養グリア細胞に含まれる細胞による顕著な貪食性を示す分子が発見された。 <シナプス形成の制御分子>海外との共同研究により、人工的に興奮性シナプス形成を生じさせる制御分子(シナプスコネクター)として作製した。シナプスコネクターはプレ・ポストシナプスの受容体に対する結合特異性を有し、AMPA受容体を過剰発現した非神経細胞に対して小脳顆粒細胞のプレシナプスが集積させることを観察した。さらに小脳くも膜下腔にシナプスコネクターを投与すると、小脳平行線維-プルキンエ細胞間のシナプス喪失により運動失調を呈する変異マウスの運動失調が回復した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題1について、実験系の確立のうち過剰発現・精製および内因性の検出系を確立することができた。シナプス除去を検出する系については、脳の各部位および神経細胞分散培養系について様々な条件での検討を行ってきたが、最適な検出系を見いだせていない。メカニズム探索については、C1qが神経細胞に結合する条件を最適化できていないものの、candidate approachによりC1q受容体の候補が見つかった。またグリア細胞による貪食能を評価するアッセイ系を構築でき、補体KOマウス由来のミクログリアによる貪食に異常が見られる実験結果を得ていることから、ミクログリアが「いつ」「どのように」除去すべきシナプスを認識して貪食するかというメカニズムに迫ることができると考えている。さらに他の補体分子群についても貪食マーカーとなりうる分子が発見され、補体ファミリー分子によるシナプス除去への新たな知見を得つつある。 課題2について、シナプス形成の制御分子の作製・評価については共同研究の成果もあり、詳細な検討が行われた。シナプス形成を生じさせる分子の特徴を解析し、結合特異性とシナプス形成を生じていることがin vitroで確かめられた。さらにin vivoにおいても作製したシナプス形成分子の投与により、シナプス喪失に伴う運動失調を回復させることが観察された。以上の研究状況から、概ね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
<課題1>シナプス除去を検出する系をin vivo、in vitroにおいて確立するために、プレシナプス分子のみに着目せず、樹状突起形成やスパイン密度を測定する。海馬CA2やバレル皮質における神経細胞を子宮内電気穿孔法や遺伝子銃を用いて標識し、形態学的に変化を検出する。またミクログリアのシナプトソーム貪食については変化を検出できているので、ミクログリアと神経細胞との共培養により、生きているシナプス貪食をin vitroで観察できる実験系を作製する。メカニズム探索については、C1qが神経細胞に結合する条件を引き続き探索する。方策としてはC1q単独での結合ではなく、C1r,C1sなどの古典経路に必要な分子を処理することでC1複合体としての相互作用を観察する。candidate approachにより見つかったC1q受容体の候補について、その機能を年次計画の通り検討する。またグリア細胞による貪食能に影響する可能性のある新規の補体分子群について、分子メカニズムおよび生理学的な意義を遺伝子抑制・過剰発現により検討する。 <課題2>継続してシナプス形成の制御分子の評価を行う。特に電気生理学的にシナプス形成を生じているのか、可塑性は有しているのか、といった詳細な検討を行う。形成制御分子についてはさらに改良を加えた分子を作製・解析を行う。除去制御分子についても作製を行い機能評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画時点で購入予定であった備品について、本研究とは目的の異なる研究室の別の予算で購入されることとなり差額が生じた。差額については実験の効率化を図るべく今年度の消耗品に計上したほか、次年度に繰り越すことで継続的な申請計画遂行を行えるように次年度使用額を生じさせることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
翌年度分として1,877,397円は物品費(消耗品)として計上し、抗体や消耗品、特に動物管理費などの経費に用いる。76,650円は旅費として計上し、国内学会の参加経費に用いる。
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