研究課題/領域番号 |
26860152
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
田村 行識 近畿大学, 医学部, 助教 (40580262)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 骨・軟骨再生 / 糖尿病 |
研究実績の概要 |
近年、幹細胞を用いた骨・軟骨再生医療の臨床応用が期待されている。糖尿病患者では骨修復の遅延が起こることから、糖尿病病態が骨修復遅延と同じ機序を介して幹細胞移植による骨・軟骨再生を障害する可能性がある。ゆえに、糖尿病による骨修復遅延のさらなる機序解明と幹細胞移植による骨・軟骨再生への糖尿病の影響の検討は重要である。 平成26年度は、ストレプトゾトシン(STZ)投与マウスを用いて、糖尿病による骨修復遅延における線溶系阻害因子Plasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)の役割を検討した。雌性PAI-1欠損 (PAI-1 KO) マウスおよび野生型 (WT) マウスにSTZ を腹腔内投与し、糖尿病 (DM) を誘発した。DM誘発2週間後、大腿骨に骨欠損を作製し、骨修復過程を定量的CT解析および組織学的手法を用いて検討した。STZ非投与群において、PAI-1 KOとWTマウスで骨欠損後の骨修復に差はなかった。WTマウスでは、DM群で骨欠損部の骨形成およびALP陽性細胞数は減少し、骨修復が遅延した。PAI-1 KOマウスでは、このDM状態による骨形成、ALP陽性細胞数の減少が有意に阻害されていた。また、PAI-1 KOマウスでは、DM状態によるOsterix、オステオカルシンmRNAの減少が阻害された。一方、DM状態による軟骨形成、II型、X型コラーゲン、アグリカンmRNAの減少および脂肪分化マーカーaP2 mRNAの増加については、PAI-1欠損の影響はなかった。 本検討結果より、PAI-1は糖尿病による骨修復遅延に関与することが示唆された。さらに、糖尿病病態の骨修復過程における骨芽細胞数の減少および骨芽細胞分化抑制にPAI-1が関与する可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は糖尿病に伴う骨・軟骨修復再生障害の機序を明らかにすることである。本年度は計画どおりに実験を進め、線溶系阻害因子であるPAI-1の糖尿病に伴う骨修復遅延への関与とその機序について明らかにした。また、本研究成果の一部がすでに学術雑誌(PLOS ONE 2014, 9:e92686)に掲載されていることから、上記のような評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画どおり、平成27年度は、骨欠損部位への骨髄細胞や間葉系幹細胞の移植による骨・軟骨再生に対する糖尿病の影響およびその機序について検討する予定である。また、糖尿病による骨修復遅延に線溶系阻害因子が関与するさらに詳細な機序について、特に骨・軟骨再生に影響する炎症状態の変化や、骨髄中の間葉系幹細胞や造血幹細胞などの挙動に注目して検討を進め、最適な骨・軟骨再生環境の構築を目指したい。
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