これまでの検討で線溶系阻害因子のPlasminogen activator inhibitor-1 (PAI-1)が糖尿病に伴う骨修復遅延に関与することをマウス生体内で示してきた。本年度は、PAI-1が糖尿病病態において骨修復遅延をもたらす機序を検討するために、骨芽細胞に対する外因性PAI-1処理の影響をin vitroにおいて検討した。マウス頭蓋冠由来初代培養骨芽細胞およびマウス骨芽細胞株MC3T3E1細胞に活性型PAI-1を処理したところ、これらの細胞においてアポトーシスが誘導されることを見出した。一方、外因性PAI-1処理および内因性PAI-1欠損による骨芽細胞の増殖に対する影響は見られなかった。さらにPAI-1が肝細胞に作用してインスリンシグナルおよび糖の取り込みを阻害することを見出し、循環血中のPAI-1の増加が肝臓における糖代謝異常を増悪することによって、さらなる骨代謝異常および骨修復遅延をもたらす可能性を示した。また、糖尿病に伴う骨修復遅延における線溶系阻害因子の役割をさらに検討するために、PAI-1とともに主要な線溶系阻害因子であるα2-antiplasminの糖尿病性骨修復遅延および骨代謝異常への影響をα2-antiplasmin遺伝子欠損マウスを用いて検討した。ストレプトゾトシン誘導性の糖尿病に伴う骨修復遅延および骨量減少に対してα2-antiplasmin欠損の影響はみられなかった。このことからα2-antiplasminは糖尿病に伴う骨修復遅延および骨粗鬆症には関与しないことが示唆された。本年度の検討と以前の検討結果から、PAI-1は線溶系阻害作用非依存的に骨芽細胞の分化およびアポトーシスを誘導することで糖尿病に伴う骨修復遅延および骨代謝異常をもたらすことが示唆された。
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