心筋細胞は成長因子により刺激されると肥大化することが知られている。このとき細胞内ではセリン/スレオニンキナーゼの一つであるGSK3βのリン酸化レベルの上昇(不活性化)が引き起こされている。我々はこれまでに、心臓に多く発現するカルシウム(Ca2+)結合蛋白質Calcineurin B homologous protein 3 (CHP3)をノックダウンすると細胞が肥大化し、しかもこのときGSK3βのリン酸化レベルが上昇することを見出した。本研究では、①Ca2+非結合型CHP3の機能、②心肥大モデル動物におけるCHP3の発現量、③CHP3ノックアウトマウスの表現型について検討した。まず、①CHP3にD123A変異を導入することで、Ca2+非結合型CHP3を作製した。野生型CHP3を高発現させたHEK293細胞にインスリンで刺激するとGSK3βのリン酸化レベルはCHP3未発現細胞に刺激した場合と比べて低下したが、Ca2+非結合型 CHP3でも野生型と同様の結果が得られた。また、②オスモティックポンプを用いてisoproterenol (ISO)を7日間継続的に導入し、心肥大を引き起こしたマウスの心臓におけるCHP3の発現量を解析したところ、Sham 群と比べ差はなかった。さらに、③CHP3ノックアウトマウスを作製し、生後6週目の心臓のサイズを解析したところ野生型マウスに比べ大きくなることが分かった。以上のことから、CHP3はCa2+との結合非依存的に心筋細胞肥大の形成に関わる因子であるが、ISOによる心肥大可能性が示唆された。
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