研究課題
概日時計の中枢である視交叉上核の時計遺伝子、細胞内カルシウム、神経発火のリズムを同時に計測するシステムを用い、培養視交叉上核の三つの機能を評価した。野生型視交叉上核はカルシウム、神経発火、PER2::LUCの時間経過に従いピーク位相が見られた。申請者はこれまでCry欠損マウスの新生児期の視交叉上核に概日リズムが存在することを明らかにしている(Ono et al., 2013 Nature Communications)。この多機能同時計測システムを用い、Cry欠損マウスの新生児期の視交叉上核のリズムを計測したところ、これら3つの位相関係が培養経過に伴い変化をしていた。また視交叉上核のdorsal領域のカルシウム濃度がventral領域に比べ低下していた(投稿準備中)。光ファイバーを用いたin vivo遺伝子発現計測は、視交叉上核からの時計遺伝子発現と行動の同時計測を報告した(Ono et al., 2015 Scientific Reports)。さらにこのin vivo遺伝子発現計測システムを用いて、嗅球におけるPER2::LUCと行動の同時計測を成功させた。また視交叉上核を電気破壊すると、行動リズムが消失する一方で、嗅球におけるPER2::LUCは、リズムが一定期間毎に出現した。この結果はMatlabを用いたウェーブレット解析を用いた時系列解析で定量を行った(Ono et al., 2015 European Journal of Neuroscience)。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は培養視交叉上核における多機能同時計測システムを用いて、野生型とCry欠損型マウスの時計遺伝子、細胞内カルシウム、神経発火の概日リズムの位相関係を同一培養スライスで評価することに成功した。この多機能同時計測は世界でも行われていない本研究室が世界をリードしている手法である。また自由行動下マウス脳内の時計遺伝子発現と自発行動量の長期同時計測も世界でも行われていない手法で、本年度はこの手法を用いた研究成果をScientific reports, European Journal of Neuroscienceに報告することができた点で予想を上回る成果が出せたと考えている。得られた時系列解析についても、用いる相対的データ数が周波数に依存しないウェーブレット解析を導入し、周期を定量化することにも成功し、計測・解析の点でも大きな進歩が見られた。
最終年度は、これまで構築した培養視交叉上核における多機能同時計測を用い、時計遺伝子Per1, Bmal1および細胞内カルシウム濃度、神経発火リズムを同時に計測するシステムを構築する。Per1-lucとBmal1-ELucは得られる発光の波長が異なることを利用し、610nmのロングパスフィルターを用いて両波長を分離する。まずは光電子増倍管を用いて実現可能かを確認し、イメージングに持っていく。また抑制性神経伝達物質GABAの機能欠損マウスを用いて、視交叉上核の時計遺伝子、細胞内カルシウム、神経発火を同時計測し、視交叉上核におけるGABAの機能的意義を明らかにする。最終的にin vivoにおいて視交叉上核特異的にGABA機能を欠損させ、行動出力にいたるGABA機能を明らかにする。
昨年度はex vivo, in vivoにおける多機能同時計測を構築することを第一目標として研究を進めてきた。昨年度の前半はほとんど機器のセットアップで時間を要したため、大きな支出がなかった。しかしその後おおむね計測システムについては完成し、後半は動物実験を含めデータが順調に得られた。今後細胞機能を制御した際の神経ネットワークの再構築、行動への出力系の評価を行う実験へ進めていく。
昨年度構築した多機能同時計測システムを用い、アデノ随伴ウイルスを用い細胞種特異的な遺伝子操作をex vivo, in vivoで行いその際の遺伝子、細胞内カルシウム、神経発火、行動の関連性を明らかにしていく。薬理遺伝学的、光遺伝学的なツールを導入する予定でおり、それらのシステムのセットアップ費用、アデノ随伴ウイルスの準備費用、動物実験のための費用などを見込んだ。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件) 備考 (2件)
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