ヒトでは、老年期になると中途覚醒や早朝覚醒など、睡眠の質の低下を感じるようになり、昼間の活動量の低下、夜間頻尿などの概日(生物)時計が駆動する生体機能の低下が認められる。最近、申請者らは、これら加齢による概日リズム機構の低下は、哺乳類の概日時計中枢である視床下部・視交叉上核(SCN)の出力系の低下が起因することを突き止めた。しかしながら、その詳しい分子メカニズムはわかっていない。本研究では、加齢による概日リズム神経ネットワークの変化に焦点を当て、加齢によるSCN機能低下の原因分子の同定を目的として検討を行った。 加齢によるSCN機能低下の原因分子の同定を行うべく、DNAマイクロアレイを用い、加齢によってSCNにて増減する分子を網羅的に解析した。その結果、約3万種類の遺伝子の中で、若齢と老齢SCNで2倍以上の発現量の差が認められた遺伝子は1041種類あり、その中でSCNにおいて発現量が高いものから順に10種類の既知遺伝子を選び、候補分子として、再度リアルタイムPCR法にてmRNA発現量の差を確認した。免疫組織化学やウェスタンブロット法などの手法を用い候補分子に対する詳細な検討を行ったが、SCNの加齢に直接かかわる分子を同定することはできなかった。しかしながら、同時に進めていた高感度電子増倍型冷却CCDカメラシステムによるSCN発光イメージング解析では、老齢マウス(20~24ヶ月齢)のSCN細胞のリズムにおいて、細胞一つ一つのリズムは若齢マウス(3~5ヶ月齢)のものとほとんど変わらないが、SCN内でそのリズムはバラバラ(解離している)になっていることを発見した。 本研究では、SCNネットワークの加齢変化をより明確なものとしてとらえることができ、今後の老化及び体内時計研究の発展に貢献する結果を得ることができた。
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