松果体はメラトニンを合成する器官として古くから研究され、メラトニンの多岐にわたる生理機能は長年研究されてきた。しかし、メラトニンの投与と松果体除去による概日リズムに及ぼす影響には矛盾した報告が多く、古くから松果体がメラトニン以外の液性因子を合成分泌していることが知られているにもかかわらず、それらの生理機能は謎に包まれたままになっていた。哺乳類における松果体除去は、SCNの発火を抑制してSCNにおける光感受性や概日リズムに影響を与えることが示唆されているが、その詳細な作用機序は不明なままであった。そこで本研究では、SCNに影響を与える松果体液性因子を明らかにするため、まずメラトニン産生CBA/Nマウスとメラトニン欠損C57BL/6マウスを用いて松果体除去により松果体の概日リズムに及ぼす影響を解析した。その結果、メラトニン合成能の有無にかかわらず、松果体除去マウスは明暗サイクルの6時間の前進・後退時差(Jet-lag)モデルに対して対照群よりも早く再同調することが分かった。光刺激による活動リズムの位相反応を解析すると、松果体除去マウスでは光刺激に対するSCNの感受性が増加していた。メラトニン投与や埋込はJet-lagへの再同調速度に影響を与えなかったが、メラトニン前駆体のセロトニン(5HT)は松果体除去によりJet-lagにおいて加速した再同調速度を減速した。これらの結果から、松果体5HTがSCNに作用し、光に対する感受性を抑制することが示唆された。また、メラトニンが松果体に作用してマスキングなどの光感受性を制御している現象も発見した。網膜変性マウスでもメラトニンが光感受性に作用したことから網膜内側に作用していると思われる。さらに、SCNのスライス培養においてPer2::lucの発光リズムが松果体との共培養により安定する傾向が確認された。現在詳細を解析中である。
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