研究課題
申請者らは、これまでタバコ煙ガス相抽出物(CSE)が、プロテインキナーゼC及びNADPHオキシダーゼを活性化することで細胞による活性酸素種の産生を促進して細胞傷害を惹起すること、CSE中の細胞傷害因子が不飽和カルボニル化合物であることを報告してきた。平成26年度は、まずCSEの作製方法の標準化を図った。そしてCSEの細胞傷害活性は、タバコの銘柄や喫煙方法に依存せず、タバコの主流煙に含まれるタール量を用いて規定できることを示した。また、CSEに含まれる不飽和カルボニル化合物の一つであるアクロレインによる細胞内タンパク質のカルボニル化について検討を行った。以前に申請者らが同定した小胞体カルシウムセンサーであるSTIM1Lのカルボニル化部位を、部位特異的突然変異法を用いて特定した。更に、タバコ煙ガス相の無毒化方法についても検討を行った。フローサイトメトリーとpropidium iodide取り込みアッセイを組み合わせた手法を用い、抗酸化物質の影響を受けない細胞傷害のアッセイ方法を確立した。確立した手法を用いて、グルタチオン・N-アセチルシステイン・システイン・ビタミンC・ビタミンE・2-メルカプトエタンスルホン酸などの抗酸化作用を有する化合物が、CSEの細胞傷害活性を抑制できることを示した。加えて、グルタチオン・N-アセチルシステイン・システインは、CSEの作用で細胞によって産生される活性酸素種と反応するのではなく、CSE中の主要な細胞傷害因子である不飽和カルボニル化合物と直接反応することで、これらの不飽和カルボニル化合物を無毒化することを見出した。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度は、タバコ煙に含まれる不飽和カルボニル化合物によりカルボニル化されるタンパク質を複数同定すると共に、そのうち1種類の標的タンパク質についてはカルボニル化部位の特定に成功した。また、タバコ煙ガス相抽出物の作製方法の標準化手法を提案し、タバコ煙ガス相を無毒化できる化合物を複数同定することができたため、実験計画に比して概ね順調に進展していると考えられる。
平成26年度の結果を踏まえ、グルタチオンやN-アセチルシステイン、システイン等によるCSE中のカルボニル化合物に起因する細胞傷害抑制の詳細な分子機構の解明を試みる。また、カルボニル化合物によってカルボニル化されるタンパク質の同定を進める。同定されたタンパク質については、マススペクトロメトリーを用いてカルボニル化されるアミノ酸残基の同定を試みる。更に、カルボニル化がタンパク質の機能に与える影響に関して解析を行い、標的タンパク質のカルボニル化と細胞傷害との関係を明らかにする予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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