研究課題
平成26年度以前には、タバコ煙水抽出物が、プロテインキナーゼC依存的に活性酸素種の産生を誘発してラットC6グリオーマ細胞に対して細胞傷害を引き起こすこと、タバコ煙水抽出物中の細胞傷害因子が、不飽和カルボニル化合物であるアクロレイン・メチルビニルケトン・2-シクロペンテン-1-オンであることを見出している。また、タバコ煙水抽出物による細胞傷害を抑制できる物質として、還元型グルタチオンやN-アセチルシステインなどを同定している。そこで、平成27年度は、これらの化合物による細胞傷害抑制の分子機構の解明を試みた。HPLCならびにマススペクトロメトリーを用いた解析の結果、還元型グルタチオンやN-アセチルシステインは、タバコ煙抽出物中の細胞傷害因子であるアクロレインやメチルビニルケトンと直接反応し、別の化合物を生成すること、これらの生成された化合物は細胞毒性を有しないこと、タバコ煙水抽出物によるプロテインキナーゼCの活性化を抑制することを見出した。以上の結果から、還元型グルタチオンやN-アセチルシステインは、活性酸素種をスカベンジするのではなく、不飽和カルボニル化合物と直接反応することでこれらを無毒化していることが強く示唆された。また、血管壁構成細胞の一つである血管平滑筋細胞も、不飽和カルボニル化合物によってプロテインキナーゼC依存的な細胞傷害を受けることが分かった。本結果から、タバコ煙ガス相は、生体内においても、同様の分子メカニズムで血管系細胞をはじめとする様々な細胞に傷害を与えていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度には、これまで見出してきた細胞傷害抑制因子による抑制の分子メカニズムを解明した。このことは分子メカニズムに立脚したタバコ煙ガス相の無毒化方法の開発に繋がるものと期待される。また、プロテインキナーゼCを介した不飽和カルボニル化合物による細胞傷害は、血管壁構成細胞においても保存されている現象であることを見出した。したがって、本研究はおおむね順調に進捗していると考えている。
平成28年度は、平成27年度以前の結果を踏まえ、タバコ煙ガス相に含まれる不飽和カルボニル化合物による細胞傷害の、より詳細な分子メカニズムの解明を試みる。特に、不飽和カルボニル化合物であるアクロレインやメチルビニルケトンによるプロテインキナーゼC活性化の分子メカニズムの解明に焦点を当てて研究を進める予定である。
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