研究課題
当研究課題では、血管内皮細胞におけるERK5の活性化が血管石灰化病変の形成に関与するか否かについてERK5内皮特異的欠損マウスを用いて検討することを目的としている。これまでに、石灰化抑制作用が示唆されているHMG-CoA還元酵素阻害剤の一つであるピタバスタチンが、培養ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)においてERK5を活性化することを明らかにした。このピタバスタチンによるERK5活性化は上流にあるMEK5の活性化は介しておらず、直接的にERK5の転写活性を上昇させていることが示唆された。さらにERK5活性化は一酸化窒素合成酵素(eNOS)のmRNA発現を増加させた。また、腫瘍壊死因子(TNF-α)によるvascular cell adherent molecule-1の発現増加はピタバスタチンによるERK5活性化を介して抑制された。以上に示されるように培養細胞においてピタバスタチンによるERK5活性化を介した内皮保護作用が確認されたため、次にマウスを用いてピタバスタチンによる血管内皮細胞保護効果におけるERK5の関与を確認した。ストレプトゾトシン誘導糖尿病モデルマウスにおいて頸動脈壁への白血球の接着が増えるが、ピタバスタチンの投与はそれを抑制した。ERK5内皮特異的ノックアウトマウスにおいてその効果は消失した。よって、血管内皮細胞でのERK5の活性化が糖尿病時の血管炎症に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。さらに、心移植モデルにおいて移植心の急性拒絶反応がピタバスタチンによって抑制されるが、ERK5内皮特異的ノックアウトマウス由来の移植心においてはピタバスタチンの抑制効果が消失しており、心筋ではなく内皮細胞のERK5活性化が、急性拒絶反応時の炎症抑制に寄与していることが明らかとなった。以上の研究結果をJournal of Immunology(2014)に報告した。
2: おおむね順調に進展している
内皮細胞におけるERK5活性化の重要性を論文報告した。また、糖尿病の血管炎症に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。初年度の科学研究費に拠り、本研究で使用している遺伝子改変動物を現在所属している徳島大学に導入することが実現した。現在順調に交配を進めており、更なる動物実験の追加を予定している。血管平滑筋細胞における無機リン刺激による石灰化の細胞内シグナル伝達について明らかにしてきた。rho-kinaseおよびcyclophilin Aの自己分泌機構が石灰化シグナルに関与している可能性を明らかにした。これらのシグナルが内皮細胞においても石灰化促進に寄与しているか否かについて今後検討を続ける予定である。
1.当初の計画通り、ERK5内皮特異的ノックアウトマウスをVE-Cadherin-Creマウスを用いて作製し、頸動脈部分結紮術あるいはストレプトゾトシン負荷による動脈硬化・石灰化モデルを作製する。VE-Cadなど内皮細胞マーカーおよび間葉系細胞マーカーについてEn Face染色を行い発現を観察する。2.すでにピタバスタチンがERK5を介して内皮保護効果を示すことを明らかにしたので、さらに培養内皮細胞を用いて高血糖刺激による内皮間葉転換に影響を与えるか否かを検討する。3.糖尿病モデルマウスおよびヒト石灰化病変におけるERK5、内皮間葉転換関連蛋白の発現を検討する。
当初、遺伝子改変動物の輸入・SPF化等、所属分野への導入に係る諸費用として計画していたものに関して、国内の研究室からの動物の分与が可能となったために大幅に低予算で実現した。更に導入に際し手続きなどに時間を要したため、その後の飼育費や、遺伝子改変のジェノタイピングに使用する消耗品などに使用する予定であった経費が次年度に繰り越されることとなった。
次年度への繰り越し分については当初の予定通り遺伝子改変動物の飼育費・餌代・ジェノタイピングに必要な消耗品の購入などに充てる。
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