骨格や骨量は性別や年齢、健康状態により差異が見られることが知られている。一方、近年の研究により骨は単に身体の支持組織として働くだけでなく、液性因子を介して他組織の機能調節に関与することが示された。これらのことを併せて考えると、骨組織を構成する細胞の数や比率に違いがあれば、放出される骨分泌因子の量も変わることが予想される。そこで本研究では骨から分泌され他組織へ作用する因子を探索し、その因子が身体の機能調節に及ぼす影響を調べ、性別や年齢、健康状態等との連関を解析することを目指した。 骨分泌因子が作用する標的として神経系を想定した。まずマウス新生仔の頭蓋冠由来の細胞から分化誘導した骨芽細胞系細胞の培養上清中に、PC-12細胞に神経突起様の構造を誘導する活性が含まれることを見出した。さらにこの活性分子を部分精製した画分から、PC-12細胞に突起構造を誘導する活性を有するタンパク質の一つとしてIgf1を同定した。そこで生体内において骨芽細胞が分泌するIgf1が神経系に作用するか否かを知る為に、骨芽細胞特異的にCreを発現するマウス系統であるBglap-CreマウスとIgf1-floxマウスを交配しIgf1-flox Bglap-Creマウスの作出を進めた。一方、骨芽細胞由来の分泌因子が影響を及ぼす可能性のある神経線維として骨髄中の神経線維を想定し、骨髄の神経線維の走行を評価するための系の確立に取り組んだ。神経線維にYFPを発現するThy1-YFPマウスの発生中の骨髄を経時的に採取し、組織学的な解析を行った。 今後Igf1を骨芽細胞特異的に欠損するマウスにおいて発生段階での骨髄中への神経伸長および生体の骨の中の神経走行に異常がないか、その表現型が雌雄差や年齢差、健康状態の影響を受けるかを調べていく必要がある。
|