研究課題
本研究はマウスの老化卵子やSirt3欠損卵子、Sirt3過剰発現卵子などの遺伝子発現状態をRNA-seq法により明らかにして、代謝と遺伝子発現と卵子の質との関係を明らかにする。さらにSirt3機能補助による老化卵子の質の改善の可能性を検討するとともに薬剤などによる活性化方法を探索することを目的としている。26年度は以下の実験を行った。1. 作成した生殖細胞特異的Sirt3過剰発現マウスの加齢による排卵数や卵巣内に保存されている卵胞数、受精後の発生率などを検討し、コントロール群に比較しての有意な差を認めた。2. 卵巣、卵子内のミトコンドリアDNA(mtDNA)の定量化を行い、老化やSirt3の増減に伴うmtDNAの変動を調べた。一方、mtDNAの欠失に関しては、高頻度で欠失が生じると報告のある部位の検討のみ行っていたが、実際は様々なパターンで欠失が生じており別の方法をとる必要がある。また、欠失ではなく変異の場合もあることから、定量化だけでなくシークエンシングによる変異の検出も必要になる可能性が考えられた。3. 加齢およびSirt3の発現量変化に伴う卵子内遺伝子発現変化を調べるためにRNA-seqencingに供試するRNAサンプルを調整した。少数の卵子から得られるRNA量ではmicroarrayに必要な収量が確保できないためRNA-sequencing法を選択した。4. ミトコンドリア呼吸鎖複合体の阻害剤処理による胚発生を検討し、ピルビニウムによる発生阻害は観察したが、より特異性の高いアトペニンによる阻害は見られなかったことから、複合体IIを利用した初期胚の代謝は寄与率が高くない可能性は考えられたが、薬剤の浸透性の違いによる可能性を検討する必要がある。
3: やや遅れている
26年度中に産休、育休のため、研究活動を一時中断したことにより当初の計画に比較してやや遅れが生じた。
RNA-sequencingのサンプル調整が完了したため、26年度に予定していた解析を実施し、卵子の老化に関係する遺伝子の抽出を行う。これまでの研究からSirt3による老化卵子の発生補助の可能性が見いだしたことから、NAD+濃度の変化以外による内因性のSirt3の発現を制御するメカニズムに関しても検討を行い、Sirt3の発現誘導方法を見いだしたい。1) USD Genome Bioinformaticsのデータベースを用いてSirt3の上流領域で種間で保存されている標的配列を絞り込む。また、東京大学先端科学技術センター ゲノムサイエンス分野(油谷研究室)の協力のもと、既存のChIP-Seqデータベースからも結合転写因子の候補を絞り込む。(Xiaohui et al., PNAS.,2007)(Jolma et al., Cell, 2013)。BACライブラリーからクローニングした候補配列をLuciferaseベクターに組み込みLucアッセイを行い、転写の活性または抑制に重要な配列を特定する。2) データベースから絞り込んだ因子及びRNA-seqにて老化により発現変化した転写因子群のなかで、 Sirt3と関連のありそうな因子を既存の研究を参考に絞り込み、Sirt3の転写に影響を与えるかどうかを検討するとともに、ChIP法により 結合しているかを検討する。3) 薬剤によるSirt3の発現誘導法の検討を行う。1),2)で絞り込んだ分子を標的にした薬剤が存在する場合、その処理によりSirt3の発現制御が起こせるのかを培養細胞で検討する。細胞傷害が観察されない場合には卵子は初期胚の倍層培地に添加し、発生や生後の生理状態への影響を検討する。薬剤、特にミトコンドリア代謝関連の薬剤に関しては東京大学 北 潔教授の助言のもと行う。以上の研究から得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う。
26年度中に産休、育休のため、研究活動を一時中断したことにより当初の計画に比較して研究の進度に遅れが生じた。当初の計画では26年度にRNA-sequencingによる解析を行う予定で予算を組んでいたが、27年度にずれ込むことが決定し、充当する計画であった予算を繰り越すことにした。また、妊娠期間中の学会発表や研究会への参加を一部取りやめたため、予算に計上していた支出が生じなかったことも理由として挙げられる。
RNA-sequencingのサンプル調整が完了したため、26年度に予定していた解析を実施する。比較したい実験群および実験条件が多岐に渡るため、繰り越した額相当には予算が必要だと考えられる。また、RNA-sequencing以外の実験データが充実してきたため、本年度は論文投稿に向けた準備を始めており、投稿費および掲載費等への予算の充当を計画している。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件)
Endocrinology
巻: 155 ページ: 3079-3087
10.1210/en.2014-1025. Epub 2014 May 30.