研究課題
卵子の老化は正常出産率の低下、染色体異常の増加と関連する。その背景に活性酸素種(ROS)やミトコンドリア機能異常などが指摘されているが、その分子メカニズムは未解明な点が多い。近年、我々は脱アセチル化酵素Sirt3がマウス受精卵においてミトコンドリアの機能調節を介した酸化ストレス防御機構に働くことを報告した。成体の老化にROSの関与が指摘されていることから、卵子においてもSirt3が酸化ストレス防御機能を介して品質管理に関与する可能性が考えられた。そこで本研究ではマウスの老化卵子やSirt3欠損卵子、Sirt3過剰発現卵子を解析に用いて代謝と遺伝子発現と卵子の質との関係を明らかにすること、Sirt3機能補助による老化卵子の質的改善の可能性を検討すること、Sirt3の活性化方法を探索することを目的とした。最終年度では、卵子の加齢変化をミトコンドリアの活性及び局在、動原体構造などの変化を指標に評価し、Sirt3を過剰に発現するマウスの老化卵子において、その加齢に伴う質的劣化が抑制され、若齢卵子様に維持されうることを見いだした。また、Sirt3の発現制御に関して、バイオインフォマティクス解析により抽出した候補転写因子群の一部が発現調節に関与する可能性を示す結果を得た。さらに、加齢およびSirt3の発現量変化に伴う卵子の遺伝子発現変化を調べることを目的として、RNA-seqに供試するRNAサンプル調整予備実験を行ったが、特に加齢卵子からのRNAサンプルにおいてRNA-seqに必要な量及びクオリティーを確保することが困難であり条件の改善を行った。研究期間を通じて、Sirt3の発現制御の一端を明らかにするとともに、Sirt3と卵子の加齢変化との関連を示し、Sirt3補助による老化卵子の質的改善の可能性を見いだした。この結果は生殖補助医療技術の更なる向上に貢献するものと考えられる。
すべて 2015
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Developmental Biology
巻: 15;402(2) ページ: 162-174
10.1016/j.ydbio.2015.04.007