研究課題
癌転移は癌死亡の主要原因であり、その克服は癌治療成績の向上に必須である。私は肺線維症に癌の併発が多い理由について、マクロファージの線維化肺への集積が癌の生存に好都合な環境を形成するという仮説を立てている。本研究ではこの仮説を検証し、マクロファージを標的とすることで癌転移を抑制できるか否かを検討する。平成26年度は主に、マウス肺から単離したマクロファージまたは線維芽細胞が癌細胞に与える影響について解析を行った。1)ブレオマイシン誘導性線維化肺またはコントロール処置肺のBAL洗浄液中に回収されるマクロファージを含む細胞集団を培養し、その培養上清を肺癌由来細胞株の培養液中に加え、細胞増殖・癌幹細胞性への影響を評価した。ブレオマイシン誘導性線維化肺由来マクロファージ培養上清添加条件において細胞増殖・癌幹細胞性の亢進が起こることを予想したが、検討を行った項目においてはコントロール処置肺由来マクロファージ培養上清添加条件との間で有意な差は見られなかった。2)ブレオマイシン誘導性線維化肺またはコントロール処置肺より肺線維芽細胞を単離し、その培養上清を肺癌由来細胞株の培養液中に加え、細胞増殖・癌幹細胞性・遊走能・浸潤能に対する影響を評価した。ブレオマイシン誘導性線維化肺由来線維芽細胞培養上清添加条件において何れかの性質の亢進が起こることを予想したが、何れの項目においてもコントロール処置肺由来線維芽細胞培養上清添加条件との間で有意な差は見られなかった。以上の解析に加え、ブレオマイシン誘導性線維化肺におけるHippo pathwayコンポーネント、EMTマーカー、病態に関与すると考えられる細胞外分泌タンパクの発現量変化をqRT-PCRやWBにより解析している。
3: やや遅れている
本学実験動物センターの施設改修のため動物実験が制限されたこともあり、ブレオマイシンによる肺線維化誘導実験系の条件最適化と安定的運用が予定よりも遅れた。以上より、研究全体の進行度としてやや遅れていると判断した。
当初の計画では、マクロファージや線維芽細胞といった線維化肺に集積する個々の細胞に注目し、それらの癌悪性化に対する影響を検討する方針を採った。次年度以降では、個々の細胞に注目するのみならず線維化肺全体で起こる遺伝子発現変化に着目し、癌細胞の悪性化に寄与する遺伝子の発現量が変動しているか否か、変動している場合はどの細胞において変化が起きているのかといった方針も並行して採用し検討を行っていく予定である。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件)
Mol. Cell Biol.
巻: 34 ページ: 1607-1621
10.1128/MCB.01346-13