研究課題
本年度は、特質性間質性肺炎(IPF)患者の線維化肺全体で起こる遺伝子発現変化に着目し、癌細胞の悪性化に寄与する遺伝子の発現量が変化しているか否かを検討する方針を採用した。結果、以下の知見を得た。1)公共の遺伝子発現情報データベースであるGEOに登録されているデータを用いて、IPF患者由来肺サンプルと健常者由来肺サンプル間の遺伝子発現パターンを比較した。結果、IPF患者由来サンプルにおいて2倍以上発現量が増大している遺伝子として61遺伝子を同定した。2)同定した61遺伝子の中に、これまでにがん幹細胞マーカーとして報告されていた遺伝子Dが含まれていた。遺伝子DとIPFの関係を解析した例はこれまでに存在しない。遺伝子Dをヒト乳腺上皮由来細胞株MCF10Aに発現させると、幹細胞性の指標となるMammosphere形成能がMCF10A細胞に付与された。この結果から、遺伝子Dは単なるがん幹細胞マーカーではなく、がん幹細胞性のドライバー遺伝子である可能性が考えられた。3)遺伝子Dにはキナーゼ活性を有するドメインが含まれているため、遺伝子Dによるがん幹細胞性誘導能にキナーゼ活性が必要であるか否かを検討した。結果、キナーゼ活性を欠損した変異体を用いてもがん幹細胞性が誘導されたため、遺伝子Dはそのキナーゼ活性に依存しない様式でがん幹細胞性を誘導していることが示唆された。以上より、IPF肺において肺癌の併発率が高くなる分子機構の一つとして、遺伝子Dの発現上昇によるがん幹細胞性誘導という機構の存在が示唆される。
2: おおむね順調に進展している
IPF肺における発現上昇遺伝子を探索することで、がん幹細胞性を誘導する遺伝子Dを同定することが出来た。また、遺伝子Dによるがん幹細胞性誘導のメカニズムの解析も順調に進んでいる。以上から、本年度はおおむね順調に進展していると判断した。
引き続き、遺伝子Dによるがん幹細胞性誘導のメカニズムの解析を継続する。IPF肺における遺伝子Dの発現誘導メカニズムについても注力して解析を行う。また、IPF肺にて発現が上昇している遺伝子として同定した遺伝子D以外の他60遺伝子についても、適切な実験系を選択して解析を行いたいと考えている。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 1件)
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