研究課題/領域番号 |
26860196
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
松丸 大輔 和歌山県立医科大学, 先端医学研究所, 助教 (50624152)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 総排泄腔 / 肛門直腸奇形 / Shh / 遺伝学的細胞標識 |
研究実績の概要 |
膀胱、尿道、直腸といった器官群は、胎児期に存在する総排泄腔が分割されることによって形成される。そのため、総排泄腔の分割不全は隣接する器官群にわたる広範囲の発生異常となる。このような先天性疾患は肛門直腸奇形(Anorectal malformations: ARM)と呼ばれ、発症頻度も高い。本研究課題の目的は、マウス遺伝学的手法を用いたARM発症メカニズムの解明である。平成27年度は、免疫組織化学染色と組織透明化技術を用いたマウス胚(Shh遺伝子改変マウス及びβ-catenin機能獲得型遺伝子改変マウス等)のイメージング解析を行ない、これらの遺伝子改変マウス胚の表現型を3次元的に示した。Shh遺伝子改変マウス胚は総排泄腔分割不全に加え、総排泄腔分割に伴う総排泄腔-中腎管結合部位の傍側中央から背側上部への移行も不完全であることを見出した。 胎生中期(胎齢9.5日~胎齢11.5日)における総排泄腔-中腎管結合部位及び総排泄腔-後腸分割領域では共に細胞死を伴いながら形態変化が進んでいくことが知られている。正常マウス胚を用いた解析から、どちらの領域も内胚葉性上皮細胞基底膜の崩壊は観察されず、周辺間葉細胞から内胚葉性上皮細胞への細胞の供給は起こらないと考えられた。また、遺伝学的細胞標識実験により胎齢10日に総排泄腔腹側上皮に存在する細胞は総排泄腔分割が起こる胎齢11.5日においても腹側に存在し、背側に移動する細胞は殆ど観られなかった。加えて、BrdUを用いた増殖細胞のパルスラベリング実験を行なった結果、上部側(頭側)尿生殖洞より後腸側に移動する内胚葉性上皮細胞群の存在が示唆された。これらの知見は、ARMの発症メカニズムの解明につながる正常総排泄腔分割の細胞レベルでの機序を提唱するものであり、今後病態モデルマウスを用いて遺伝子発現解析等の解析を行なっていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成27年度は、平成26年度に得られた3次元的解析の結果(総排泄腔の分割に重要であると考えられていた尿直腸中隔は独立した胎仔構造としては存在しないこと)を踏まえ、遺伝子改変マウス胚を用いた3次元表現型解析と遺伝学的細胞標識解析、BrdUパルスラベル実験を行なった。その結果、総排泄腔分割に伴う内胚葉性上皮細胞の総排泄腔側から後腸側への移動の可能性を示唆するに至った。研究手法としてマウス胚レベルでの免疫組織化学染色、3次元イメージング解析を行うことで一定の成果は得られ、これらの結果を組み合わせて学術論文として発表するに至った。しかしながら研究計画に関しては、平成26年度中に得られた結果により総排泄腔分割過程を3次元的に解析する必要性が示唆されたことで、当初予定していた遺伝学的細胞除去実験に用いるCreドライバーマウスのCre組換え酵素発現領域等の再検定、実験の有効性の再検討を行なうなどの見直しが必要となり、予定通りに実験を進めることができなかった。また、遺伝子改変マウス群のコロニー拡大に想定以上の時間がかかり、年度内に十分な表現型・遺伝子発現解析を行うことはできなかった。これらの理由により、全体として研究に遅れが生じていると判断された。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の3次元イメージング解析等から総排泄腔分割における内胚葉性上皮細胞の動きに関する知見が得られた。平成28年度は、これら細胞・組織の動向に関わる分子の同定と機能解析、そして内胚葉性上皮細胞除去実験を進める予定である。平成26年度の研究結果により、尿直腸中隔を独立した胎仔組織と見なして解析するだけでは真に重要なメカニズムの示唆に至らない可能性が考えられたため、遺伝子・タンパク質発現解析も3次元的に行なう。具体的には、初期総排泄腔分割において重要であると考えられる胎齢10.5、11.5日マウス胚を個体レベルで蛍光in situ hybridization法、免疫組織化学染色法により染色し、共焦点顕微鏡や3次元再構築ソフトウェアを用いた発現領域の検定を行なう。検定する分子は、関連する分子の遺伝子改変マウスがARMの表現型を呈することが知られているHh、Wnt、Bmpシグナル系を予定しており、これらに加え、細胞外マトリックス成分の発現解析を行なう。シグナル因子及び構成因子の発現解析と並行して、これらの分子群の機能欠損・獲得型遺伝子改変マウスを用いて、遺伝学的な表現型回復実験を計画している。遺伝学的ツールを用いることができない分子である場合、シグナル阻害剤等の薬理学的手法を用いたin vitro実験によって検討する。内胚葉性上皮細胞除去実験に関しては、タモキシフェン誘導型Cre発現マウス(Shh-CreERT2)のタモキシフェン投与量ごとのCre誘導パターンの検討を踏まえて、特に総排泄腔背側-後腸腹側に分布する内胚葉性上皮細胞において細胞死の誘導を試みる予定である。これらの実験から、総排泄腔分割に関わるシグナル因子のヒエラルキーを明らかにし、ダイナミックに移動すると考えられる内胚葉性上皮細胞の重要性を明らかにできることを期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、前年度得られた知見より、実験計画の変更と使用ツールの有効性の再検討を行なった。いくつかの重要な知見を得ることができたものの、課題自体の遂行は遅れたといえる。実験を集中的に行なったことにより、学会参加や成果発表を行なわなかった。計画変更に伴う受託解析の見送りもあったため、結果として未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究では、主としてマウスを用いた個体レベルでの解析を行なう。特に平成28年度はマウス遺伝学的手法を用いた実験が多くなるため、飼育経費を多く計上すると考えられる。飼育費用として約120ケージを一年間維持し、かつ系統維持あるいは正常マウス胚採取のためにマウスを購入することを考えると50~70万円程度の費用が必要となると考えられる。また、マウスの遺伝型判別や組織学的解析に使用する酵素類、抗体類の購入、手術や個体サンプルの保存に用いる金属器具、プラスチック器具、遺伝学的細胞標識や組織培養実験に使用する試薬類を購入する。形態解析のために主としてマウス胚個体での免疫組織化学染色を行なうが、本手法は一次抗体、二次抗体共に通常の免疫組織化学染色実験より多量に使用する。加えて、組織培養の手法を用いた実験では各種シグナル阻害剤を購入することになり、そのための費用を計上すると考えられる。
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