研究課題
本研究は、癌細胞で特徴的にみられる増殖機構を解明することで、より安全かつ効果的に癌細胞の増殖を抑制し得る治療標的分子を見出すことを目的としている。申請者は、ユビキチン化修飾酵素A20が癌細胞株の増殖を支える有力な候補分子である考えており、その分子機構の解明に取り組んだ。多くの癌細胞では転写因子NF-kBが持続的に活性化しており、このことが癌細胞の生存を支える一因であると考えられている。ホジキンリンパ腫をはじめとする持続的なNF-kB活性化のみられるB細胞由来リンパ腫細胞においてNF-kB抑制因子A20の変異や欠損がみつかったことから、A20は癌抑制因子として機能することが示唆されてきた。しかしながら申請者は、強力なNF-kB活性化のみられるHTLV-I感染細胞株におけるA20の発現を抑制したところ、癌細胞株の特徴の1つである免疫不全マウスにおける造腫瘍能が抑制されることがわかった。さらにはHTLV-I感染細胞株に加え、A20を発現するホジキンリンパ腫細胞株におけるA20の発現を抑制することで、アポトーシスの重要な制御因子である caspase-8およびcaspase-3の活性化が誘導されることがわかった。続いて、これまでA20はNF-kB抑制因子および癌抑制因子しての役割が示唆されてきたが、一方でサイトカイン刺激による細胞死を抑制することも以前より知られている。肺癌、乳癌細胞株はTNFa刺激による細胞死に抵抗性を示したが、転写因子NF-kB活性化の抑制あるいはA20の発現抑制によりTNFa刺激によるcaspase-8およびcaspase-3の活性化が誘導されることがわかった。さらに、NF-kB活性化を抑制した肺癌、乳癌細胞株、そして内在性A20を発現しないA20欠損マウス由来線維芽細胞に外来性A20を発現させたところ、caspaseの活性化が抑制されることがわかった。以上の結果は、A20がサイトカイン刺激による細胞死の抑制に重要な役割を担うことを示唆するものである。
2: おおむね順調に進展している
申請者の研究成果は、A20はcaspase-8を標的とすることで癌細胞の生存を支える可能性を示すものである。HTLV-I感染細胞株において、A20のユビキチン化修飾酵素活性変異体はA20の発現抑制による細胞生存の低下とcaspase-8活性化を回避させたため、A20は既知のユビキチン化修飾酵素活性とは非依存的に腫瘍細胞の生存を支えることがわかった。また、HTLV-I感染細胞株においてA20のC末端側zinc finger領域 (A20-C)がA20の発現抑制による細胞死の回避に重要であることを明らかにした。TNFaやTRAIL刺激は細胞死誘導性シグナル伝達複合体 (DISC)の形成を誘導し、結果としてその構成因子であるFADDとcaspase-8の相互作用によるcaspase-8活性化を引き起こすことが知られている。HTLV-I感染細胞株においてA20はサイトカイン刺激がなくともcaspase-8あるいはFADDと共免疫沈降したことから、A20はDISCの形成を阻害することで細胞死を抑制する可能性が示唆された。一方、HTLV-I感染細胞株におけるA20の発現抑制によっても持続的なNF-kB活性化は変動しなかったことから、A20はNF-kB活性化の制御とは異なる機構で細胞生存を支えることが考えられる。以上の研究成果を国際学術雑誌に投稿し、現在審査を受けている。また、NF-kB活性化を抑制した肺癌、乳癌細胞株およびA20欠損マウス由来線維芽細胞においても、A20は既知のユビキチン化修飾酵素活性とは非依存的にC末端側zinc finger領域 (A20-C)を介してcaspase活性化抑制と細胞生存に重要であることを明らかにした。また、肺癌細胞株においてA20はTNFa刺激依存的にcaspase-8と共免疫沈降したことから、肺癌、乳癌細胞株においてA20はcaspase-8を標的としてTNFa刺激による細胞死を抑制する可能性がある。
HTLV-I感染細胞株、ホジキンリンパ腫細胞株、肺癌、乳癌細胞株においてA20は細胞生存に重要な役割を担うことが明らかとなったが、さらにその分子機構の全容を明らかにするためには以下のことを解明する必要である。まず、HTLV-I感染細胞株においてA20がFADDとcaspase-8の相互作用を阻害するかどうか。肺癌、乳癌細胞株において、A20はTNFa刺激後に誘導されるFADDとcaspase-8の相互作用を阻害するかどうか。TNFa刺激はDISCの他の構成因子であるRIP1やTRADDの相互作用およびTNF受容体への結合を誘導するが、A20はそれを阻害するかどうか。H26年度の研究成果として、申請者は既にA20の発現を抑制したHTLV-I感染細胞株を予めcaspase阻害剤で処理することにより、FADDとcaspase-8の共免疫沈降がみられる可能性を見出している。NF-kB活性化を抑制した肺癌、乳癌細胞株における外来性A20の発現はTNFa刺激による細胞死を抑制したが、一方で子宮頸癌細胞株HeLaや卵巣癌細胞株DLD-1においては細胞死を抑制しなかった。以上の結果は、A20だけでは癌細胞株の細胞死抵抗性を説明できない例があることを示す。その場合、A20による細胞死の抑制には補助因子が必要とされる可能性が考えられるため、GST融合A20-Cを発現し得るレンチウイルスベクターを構築しHTLV-I感染細胞株に発現させてGST-pull down assayを行った。その結果、銀染色法により約30 kDa付近にバンドが検出されることがわかった。GST pull down assay/質量分析法により、新たなA20の結合因子を同定できる可能性がある。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件)
Leukemia
巻: In press ページ: In press
DOI: 10.1038/leu.2015.1.
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