研究課題/領域番号 |
26860209
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
坂元 一真 名古屋大学, 高等研究院, 特任助教 (60612801)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ケラタン硫酸 / コンドロイチン硫酸 / オートファジー |
研究実績の概要 |
本研究計画は、中枢神経損傷後軸索再生阻害因子である、ケラタン硫酸・コンドロイチン硫酸キメラ型プロテオグリカン・Phosphacanの作動様式を解析するものである。Phosophacan上の糖鎖のうち、コンドロイチン硫酸については受容体としてPTPσおよびLARが同定されていたが、ケラタン硫酸についてはその意義が不明であったため、平成26年度は研究計画に則り、これら受容体とケラタン硫酸との相互作用を表面プラズモン共鳴(SPR)により解析した。この結果、ケラタン硫酸もこれら受容体と相互作用すること、またこのとき、硫酸化程度の低いケラタン硫酸が結合に必要であることを明らかにした。さらに興味深いことに、ケラタン硫酸はコンドロイチン硫酸とは別領域に結合した。この結果は、Phosphacan上のケラタン硫酸とコンドロイチン硫酸とが、それぞれ独立に受容体に認識されるというモデルを支持するものと考えている。 さらにコンドロイチン硫酸についても詳細な解析を加えた。多様なその硫酸化パターンのうち、E構造が特異的に受容体に結合できること、さらにこのとき最小4糖が結合に必要であることを明らかにした。この時の解離定数は15nMと非常に強固であった。E構造は全コンドロイチン硫酸鎖の3%を占める。 へパラン硫酸もまたPTPσ・LARを受容体とするが、ケラタン硫酸・コンドロイチン硫酸とは逆に軸索伸長に促進的に働く。そこでへパラン硫酸についても解析を行ったところ、全へパラン硫酸鎖のうち、50%を占める構造が結合に関与していることが明らかとなった。 コンドロイチン硫酸鎖およびへパラン硫酸鎖のうち、受容体との結合に必要なドメインの頻度の違いが、軸索伸長における真逆の形質を説明できると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は研究実績の概要で述べた通り、当初研究計画で行う予定であったケラタン硫酸に加えて、コンドロイチン硫酸およびへパラン硫酸についても詳細な解析を行うことができた。この結果、①低硫酸化ケラタン硫酸もPTPσ・LARのリガンドであること、②コンドロイチン硫酸結合時の最小機能ドメイン、③へパラン硫酸結合時の最小機能ドメイン、を決定することに成功した。またこの成果より、④ケラタン硫酸、コンドロイチン硫酸が協調して受容体に結合すること、⑤最小機能ドメインの頻度が受容体ステータスを決定し、異なるシグナルを伝搬する、というモデルを提唱することができ、現在このモデルの証明に取り組んでいる。このことから本研究計画は当初期待以上の成果を挙げていると考えている。 一方、受容体型チロシンフォスファターゼ(RPTP)の単量体・二量体化の可視化については当初研究計画について若干の修正を施し、RPTPの細胞外ドメインと上皮成長因子受容体(EGFR)の細胞内ドメインの融合タンパク質を作製した。リガンドによるRPTPの重合・解離をEGFRのチロシンキナーゼ活性(TK)に変換して検出しようというものである。 そしてこれまでのところ予備的ではあるが、ケラタン硫酸およびコンドロイチン硫酸はRPTPを解離させ、へパラン硫酸はRPTPを重合させる、という結果を得ており、本研究項目についてもおおむね順調であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度も研究計画に則り、研究を実施していく。Dystrophic endballの細胞学的性質については、平成26年度にも新しいデータが得られた。Dystrophic endball内にオートファゴソームが見出されたことはすでに報告したが、これがオートファジーの誘導によるものではなく、むしろオートファジーフラックスの阻害によるものであることを明らかにした。実際に健常な神経軸索において、オートファジーフラックスをクロロキンなどを用いて薬理学的に阻害すると、Dystrophic endball様の変性構造を誘導でき、このとき、軸索伸長は著しく阻害される。今後は、本結果を、SNAREタンパク質などをターゲットとした遺伝学的実験を加えてさらに検証するとともに、受容体からオートファジーフラックスの阻害に至るpathwayと主要な分子について考察していきたい。 In vivoにおけるDystrophic endballの解析についても計画通り行う。現在マウス脊髄半切モデルと、皮質脊髄路のトレーシング・可視化技術を用いて、損傷軸索先端部の解析を行っているが、再現性の高いモデルの作成が可能となってきた。また再生阻害軸索が主題していることも確認できている。必要であれば、オートファゴソーム可視化マウスなども利用した実験を追加していく。 さらに平成26年度に新しく見出すことができた、「最小機能ドメインの頻度が受容体ステータスを決定し、異なるシグナルを伝搬する」というコンセプトについても検証していく。
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